さかなクンの半生を描いた、のんが主役の『さかなのこ』を観たのだ。
『さかなのこ』 さかなクンを演じる違和感ない、のん。 「おとぎ話」のような物語。 監督:沖田修一 出演:のん 柳楽優弥 夏帆 |
さかなクンの半生を沖田修一監督がのんを主演に迎えて映画化。
さかなクンの自叙伝『さかなクンの一魚一会 まいにち夢中な人生!』を基にフィクションを織り交ぜながらユーモアたっぷりに描く。
『さかなクンの一魚一会 まいにち夢中な人生! 』
さかなクン (著) |
『横道世之介』の沖田監督と前田司郎が共に脚本を手掛ける。
幼なじみの不良ヒヨを柳楽優弥、シングルマザーのモモコを夏帆、ミー坊との絆を深める不良の総長を磯村勇斗、原作者のさかなクンも出演。
2022年製作/139分/G/日本
配給:東京テアトル
毎日魚を見つめ、寝ても覚めても魚のことばかり考えている魚が大好きな小学生のミー坊。
父親が少し変わっている我が子を心配する一方で、母親はミー坊を温かく見守り応援している。
高校生になっても相変わらず魚に夢中なミー坊は町の不良とも仲が良く、いつの間にか周囲の人々の中心にいた。
やがて一人暮らしを始めたミー坊は様々な出会いを経験して、自分だけが進むことのできるただ一つの道を突き進んでいく。
男の子であるとか女の子であるとか、そんなことは関係ないと性別を超越した「さかなクン」と「のん」の存在。のんが演じるミー坊はセーラー服やスカートをはくわけでもなく、学ラン姿で登場して、やはり男の子として捉えるのだと思うが、のん自体は正真正銘の女の子で、特に髪の毛を短くしたり男の子に寄せることなく女の子のまんま演じている。女の子のまんま演じているのに「さかなクン」としての違和感がないことが、のんの持つ人間としての透明性、役者としての才能、純粋無垢な特別な存在であることに他ならない。
「男か女かはどっちでもいい」と思わせる説得力があり、本当に観ていて何の違和感もないのだから不思議だ。
さかなクンを演じられるのは男性俳優でも他に思い浮かばない。ましてや他の女優でも該当せず、さかなクンを演じられるのはのん以外に存在しないのである。
さかなクンとのんは伝説の朝ドラ『あまちゃん』でも共演して、その相性の良さは既に証明済だ。
本作ではさかなクンが「変なおじさん」的な役回りで登場して、幼き日のミー坊と魚を通して交流する。さかなクンの半生を描いた物語に実際のさかなクンが登場してもおかしくないのが、さかなクンという存在の魅力でもある。
学ランを着たのんにも違和感がない。実年齢は30歳手前だが、学ランを着てもイイ意味での幼さが違和感を感じさせない。
実際の性別や年齢を超越した設定に違和感を感じることはないが、「神話」や「おとぎ話」を観ているような感覚が『さかなのこ』に少し感じられる気がする。
のんの周囲にいる人たちも魅力に溢れている。不良グループとの交流は馬鹿馬鹿しくて微笑ましい。魚を通して皆が心を通わし、敵対していたはずの連中同士が仲良くなる。
柳楽優弥も良かった。『浅草キッド』でたけしさんを演じていたからなのだろうか、時折たけしさんの顔を覗かせていた。
ミー坊の両親の離婚、柳楽優弥と彼女のいざこざ、そんなシーンを描くことなく割愛することで、「何があったのか」を想像させる巧みな表現で本作を不純物の入った苦い物語にすることなく美しい物語に消化させた。
本作を受け入れられない人がいるとすれば、その美しさに「現実的ではない」と思う点ではないだろうか。ミー坊の周りにいる優しき世界が不自然に映るのも理解出来る。
ミー坊の友人の女性が幼き女の子を連れて「行く場所がない」とミー坊の元を訪ねに来た時も、ミー坊は理由を聞いたりしないし、下手な講釈を垂れることもない。ただ友人と女の子との暮らしを素直に楽しんでいるのだ。
好きな魚のことをひたすらに好きでいて、身の回りの人たちと楽しく過ごして、ミー坊は周囲から愛され、晴れて「さかな博士」になる。
本作を観て、のんの魅力も凄いと思ったが、さかなクンの凄さに感銘を受けた。
好きなことを純粋に続けていくさかなクンの人生に魅了されたのである、といったところで「カット、カット」。
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