又吉直樹さんの三作目の小説、『人間』刊行記念トークイベントが、新宿の紀伊國屋サザンシアターで開催されたので行ってきたのだ。
芥川賞の又吉直樹さんと直木賞の西加奈子さんの二人によって起こる、抱腹絶倒、前人未踏、水戸納豆な化学反応を期待するトークイベントなのだ。
僕は又吉さんの処女作『火花』しか読んでいないが、『火花』では文章表現のレベルの高さに驚愕して3頁に一度失禁したものである。
僕は又吉さんの小説や読書に関してのトークが好きで、YouTube等で聴き漁っていたのだ。
その中でも西加奈子さんとのトークが面白くて好きなのである。今回は生で聴ける絶好の機会なので、トークイベントに足を運んだ。
『火花』『劇場』に続く三作目『人間』がこの度刊行された。
僕は『人間』がどんな内容であるかも知らないまま、受付で『人間』の書籍を受け取り会場に入る。
又吉さんと西さんが登壇して、『人間』を読んだ西さんが又吉さんに熱いテンションで感想を話し始める。
西さんは誉め言葉として「狂っている」と評した。
西さんは大好きなプロレスに例えて、最高の名勝負「船木誠勝VS鈴木みのる」の戦いを凄く印象に残っているはずなのに、どう言葉にすればいいのかわからないと言う。『火花』や『劇場』は言い表せたけれど、『人間』は「船木誠勝VS鈴木みのる」のようだと。
『人間』の登場人物である二人が対面するシーンでは、又吉さんは「遂に二人がこれから会うんや!」と書きながらドキドキしていたらしい。自分が書いているから、自分のさじ加減でいつでも会わせる事が出来るのに。
それを聴いた西さんは「泣きそう!」と感激していた。
又吉さんも西さんも非常に純粋で感受性が豊かだ。言葉を生業としている二人だからこそ会話のひとつひとつを読み解く力が敏感で、言葉の向こうの物語を想像出来るので心に響くのだ。
又吉さんのマイペースなトークと、明るい西さんとの二人の掛け合いが心地いい。
又吉さんが「フツーの事を言っているのが一番面白い」と言っていた事が笑えた。
芸人は面白い事を言うものだ。息をするようにボケるものだ。そんな時、フツーの事を言っている状況がめちゃくちゃ面白いらしい。
芥川賞を受賞した時でのスピーチは、芸人だからといって一切ボケずにフツーに振舞っている事が一番のボケなのだ。
西さんも共感して、母親がフツーの事を言うのが面白くて大笑いしていたらしい。
言葉を扱うプロは一周回って、何ともないフツーの言葉が面白くなるのかもしれない。
又吉さんの言う「一緒やん」も面白かった。
この人のこういうとこが好き、あの人のこういうとこが嫌い、「結局、一緒やん」。お腹空いたから何か食べよう、食べるの我慢しよう、「それって一緒やん」。
「違うやん!」とツッコミたくなるが・・・。
又吉さんは「芸人」であり「作家」である。
人は色んなものをカテゴリー分けしたくなる。元々は便利のために分別しているはずだったのに、イチイチ「芸人」や「作家」で分けたくなる。しかし芸人をしている時の経験は作家にも活きてくるし、逆も然りだ。
教師が作家活動をしている場合、教師をしている時間にも小説の事を考える事もあるし、それもまた逆も然りなのだ。
タンスに衣類をカテゴリー分けして収納するのは便利だが、それをひとつの箱に収納してしまえば「一緒やん」という事だ。
なかなか哲学的ではあるが、結局は「一緒やん」という事なのである。
「芸人」なのか「作家」なのか、『人間』やん。だったら「一緒やん」。
トークイベントは1時間45分で幕を閉じた。
『火花』『劇場』は、青春の真っ只中にいる若者たちの夢や挫折を描いていたが、『人間』は、その後の物語らしい。
漫画家の夢に破れた38歳の男が主人公である。
僕は不思議だったのだ。
又吉さんは今までの小説の中で、『人間』の主人公が又吉さん自身に一番近いという。
又吉さんは芸人としても小説家としても成功しているではないか?。全然近くない。又吉さんは脚光を浴びているではないか?
僕のように地球上で世界中で全人類の中で一番底辺で一番のクズな男なら共感するところもあるかもしれないが。
『人間』を僕はまだ読んでいないので確かな事は言えないが、そこが疑問なのである。
置かれている立場や状況、環境が似ているわけではなく、性格や思考等が似ていると言っていたのかもしれないが。
また『人間』を読了次第、感想を書きます。
『人間 』 |
この記事へのコメントはありません。