日本古典絵画の動物をモチーフに作品を再構成して描かれている、松本亮平の新たなる創造。
銀座・京橋のSILVER SHELLにて、松本亮平展『生命の記憶-Ⅲ-』が開催とのことで、芸術の風に吹かれに行く。
画廊の扉を開ければ文字通り新たなる扉を開けたような世界観に包まれて、昨年の個展とは一風違った作品群が展示されていた。
中央には『黒猫図屏風』。江戸時代中期の絵師・伊藤若冲の鶏図の屏風を、躍動感ある黒猫というカタチで亮平さんが表現している。
急流の滝を竜門まで昇りきることで鯉は竜になるという『登竜門図』は、これまで多くの画家たちによって描かれてきたが、鯉が勢いよく飛び出てくるという発想は実に愉快だ。平面に立体的な錯覚を与えて、鯉の力強い生命力をより一層感じるのである。
古きを尋ねて新しきを知る「温故知新」とは、美術雑誌『美術屋・百兵衛』で亮平さんが連載されているコラムのタイトルである。
素晴らしき日本古典を尋ねて新しき創作の道を切りひらく、温故知新の精神が筆を走らせる。
若冲の『老松白鳳図』の世界に入りこんだ猫たちは、白鳳をジッと見ている。
白鳳は美しく金色に輝き、我々だけではなく猫たちをも魅了するのだ。
『Talisman』という作品は、動物たちの背後に円山応挙の『雨竹風竹図屏風』の風竹の屏風が描かれているのだが、屏風の向こう側は真っ赤な炎が燃え上がり大惨事だ。
よく見ると竹は、屏風に描かれた絵と同じカタチをしている。
それにしても屏風にまで炎は燃え移っており、この後一体どうなってしまうのか?
『Recreation』は、そんな物語の続きである。
屏風が盾となり、炎から動物たちを守ってくれたのだ。
『Talisman』とは「護符・お守り・不思議な力のあるもの」という意味がある。
動物たちは「守ってくれてありがとう」と、屏風に新しい絵を描く。
そこに描かれているのは円山応挙の『雨竹風竹図屏風』の雨竹なのである。
僕が『Talisman』を見て「後ろが大惨事ですやん」と言うと、亮平さんはその物語をわかりやすく解説してくれたのだった。
『Talisman』と『Recreation』は二枚で一対になっていたのである。
しかし亮平さんは「見る人がそれぞれ違った感じ方でとってくれて構わないんです」と言う。
物語はひとつではない。見る人がそれぞれの感受性で、それぞれの物語を想像すればいい。「正しい」や「間違っている」などとつまらない議論には何も生まれない。見る人の自由であっていいのだ。自由に想像することが新しい物語を紡ぎ、作者にとっても面白い発見になるのだと思う。
見に来た人たちが作品を撮っている写真についても、亮平さんは「違った角度で自分の作品を見れるから面白い」と言うのだ。写真一枚にも、それぞれの視点がある。作者の意図しなかった角度や構図が、亮平さんには新鮮な目で自分の作品に触れることが出来る発見なのだろう。
『渡り鳥』は、若冲のいた江戸時代の京都から現代の東京へと、空を渡り、時代を渡り、若冲の掛軸を鳥たちが運ぶ絵である。
歌川広重が描いた京都の三条大橋から、若冲の掛軸を運ぶ渡り鳥。
空の向こうには、いや大地には、現代の東京が確かに見える。
渡り鳥たちは江戸時代から現代へと、作品を届けてくれるのである。
そして、それはまさに個展のタイトルでもある『生命の記憶』であり、日本の古典絵画は現代の作品に宿り、亮平さんの魂に宿っているのだ。
受け継がれる日本の魂は、脈々と未来永劫、続いていくのである。
『ブレイク前夜~次世代の芸術家たち~ 松本亮平 Ryohei Matsumoto』 素早い筆さばきと、優しい語り口調ながら力強い信念が感じとれるのが印象的。 |
松本亮平展『生命の記憶-Ⅲ-』 ’19年11月21日(木)-12月6日(金) 11:30-18:30 日祭休廊、最終日は17:00まで 作家来廊日 11/21,28,30,12/5,6 etc SILVER SHELL 中央区京橋2-10-10 KCビル1F |
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