昨年はコロナの影響で非常事態宣言が発令されたため、残念ながら親子展に足を運ぶことが出来ず見送ることになった。
8/16、横浜市みなとみらい駅構内サブウェイギャラリーMで開催されている『松本敏裕 ×亮平展 ー それぞれの表現Ⅷ ー 』にて、二年ぶりに親子展を満喫。
展示期間は8/15~8/21まで。
「本展示は今回を区切り」と記載されており、毎年恒例だった親子展は来年から一旦休止ということだろうか。
今回、敏裕さんの展示では30年近く前の貴重な作品から現在までを堪能することが出来る。
コロナ感染流行前のヴェネチア・フィレンツェの風景や、1994年秋の研修旅行でのスペイン・ポルトガルの作品。横浜の風景から静物画、陶絵付等、様々な作品が展示されている。
描かれた風景を振り返りながら、アルバムをめくるように作品に足を止めた。
構図や奥行き、色使いとタッチにより、空気の流れまでもが感じ取れ、静かに深呼吸をしてみる。
光と影、水面と空気のゆらめき、大事な一瞬が匂いや音と共に目に映るのだ。
絵皿をモチーフにした静物画では、ユニークな発想が絵皿に添えられ、思わず口角が上がる。
『南京赤絵とほたるいか』は、絵皿からはみ出したほたるいかが可愛らしくて仕方ない。絵皿と余白、散りばめられたほたるいかのバランスが非常に上品である。
『鰯と翡翠と色絵皿』では、絵皿の左右に翡翠(かわせみ)が翼を広げ、絵皿の前には鰯(いわし)が寝そべっている。
小魚を食べる翡翠だが、鰯が大きくついばむか迷っているようにも見えて面白い。絵皿に描かれた花々が自然の風景のようにも見え、翡翠が泳いでいる鰯を狙っているかのようにも錯覚出来る。
敏裕さんの目に映った横浜の風景。
芸術家の目には何が見えて、何を捕らえるのか。芸術家の感性で街の風景を見た時、誰もが気付かず通り過ぎていくような日常の風景も煌めいて見えるのだろう。
敏裕さんの目で見た横浜の風景が、作品を通して自分の目に映すことが出来る。視線を上げたり下げたり、正面や横、斜めに位置することで目に映る風景が変わるように、芸術家の見る風景は非常に興味深い。
作品を通して目の当たりにする芸術家の感性と、作品を通して思い巡らす鑑賞者の感受性。
アートに触れることは間違いなく心を豊かにすることである。
亮平さんの今回の展示は挑戦的で、中々拝見することが出来ない代物。絵巻物を壁一面に張り巡らせて来場者を圧倒する。
描かれているものは、もちろん動物。動物たちの愉快な百の物語が敷き詰められている。
タイトルは『動物界の百の萬意』。和紙に墨と筆で描かれた大作である。
本作品は作品に記された数字に合わせ、順に解説書を読んでいくことで、一層深く楽しんで作品を味わうことが出来る。
例えば「2」番では『鵜の真似をする烏溺れる』という諺(ことわざ)の絵が描かれており、烏(からす)が姿の似た鵜(う)の真似をして水に潜ってみても魚が捕れないどころか溺れてしまう様子を表し、自分の能力や身の程をわきまえずに人の真似をしても必ず失敗するとの意味がある。
本作は勉強にもタメにもなる遊びゴコロ満載の絵巻物なのだ。
しかも百個もの諺を中心とした絵が描かれているので、展示を見終えた頃には少し頭が良くなった気がする。
もちろん動物絵だけを見ていくのも面白い。先ずは絵を見て、自分の頭の中で「何の諺だろうか?」とクイズしながら答え合わせしていくのも良い。
だが「猿も木から落ちる」のような簡単な諺も描かれている場合もあるが、全然聞いたこともないような難しい諺もあるので、クイズに挑戦していくのは諺に自信のある諺博士のみにオススメしたい。
では比較的簡単な諺クイズをしてみよう。「39」番に描かれた絵の諺は何でしょうか?
お分かりになられたでしょうか?
流石です。諺博士の称号を得るのも近いですね。
そう、正解は『火中の栗を拾う』でした。
実は本作を楽しめるのは諺だけではなく、「連想ゲーム」のように諺と絵が繋がっていることである。
例えば「59」番と「60」番の絵では、「59」番の『狐の嫁入り』から「60」番の『狐につままれる』へと続いている。
「68」番『糠に釘打ち』で猿が糠に釘を打てば、一匹の猿が「69」番『暖簾に腕押し』で暖簾を押して露店風呂へ、「70」番では露店風呂に入った『酒を飲んですぐに風呂に入るな』から、「71」番『酒は詩を釣る針』へと、連想ゲームを繰り広げながら愉快な猿たちが描かれているのだ。
ただひたすらに描かれた百個もの動物絵に感動させられる。
本作は2015年制作、亮平さんがまだサラリーマン勤めをしていた頃である。一日ひとつのテーマを決めて描いていたという。
百日をかけて百個もの動物絵を描いた絵巻物『動物界の百の萬意』。
会社勤務をしながら絵の制作をすることは容易ではない。仕事を終えたら、少しでもゆっくり疲れた身体を休めたいものだ。筆を握る体力がない時もあっただろう。でも筆を握る気力だけは人一倍あったのではないか。一日少しでも絵を描きたい。その情熱が本作を生み出したのである。
特に今回は時間を頂いて、亮平さんと色々と話をさせてもらった。
彼の口から出て来るのは「時間があれば絵を描きたい」「一番楽しいのが絵を描いている時間」「絵が完成した時は嬉しい」と、とにかく笑顔で情熱的な言葉が次から次へと。
暇があれば怠けてしまいたい気持ちがあるのではなく、暇があれば絵筆を握っている。亮平さんにとって、一番の娯楽が「絵を描くこと」なのだ。
情熱というよりも日常なのかもしれない。絵を描くことが日常であり、当然であり、息を吸うように絵を描いている。
鳥が空を飛ぶように、魚が水中を泳ぐように、当然の如く絵を描いている。
昨年は参加出来なかった親子展に、今年は参加出来て良かった。
毎回、二人の創作意欲の凄さに驚かされてばかりだ。
また来場者に対しての配慮や愛想の良さ、質問を投げかければ笑顔で受け答えする姿勢もファンを更に虜にする。
敏裕さんのお兄さんの彫刻作品も展示されている。
中でも『孔雀明王像』が凄過ぎて、好き過ぎる!!
今回も親子展を大満喫。
夏の太陽よりもギラギラと照り続ける情熱を絵筆にのせて、キャンバス一面に煌めくアートな花々は、人の心に笑顔を咲かせてくれるのだ。
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