松本敏裕さんと亮平さんの親子展は毎年、横浜市みなとみらい駅構内サブウェイギャラリーMにて開催されていたが、今年は横浜市泉区民文化センターテアトルフォンテで開催された。
8/8、『松本敏裕 ×亮平展 ーそれぞれの表現Ⅵー』に行ってきたのだ。
2020年は東京オリンピックが開催される予定だったこともあり、みなとみらい駅構内のサブウェイギャラリーMを「借りられなかった」と昨年末に亮平さんが話していたので、残念ながら今年の親子展は開催されないと思っていた。
だがギャラリーを変えて開催される運びとなった。
コロナの影響等で展覧会に足を運びたくても運べなかった人たちもいると思うので、ブログ記事を通して展覧会の様子をお伝えできればと思います。
また今年は「松本亮平さんのワークショップ」にも参加させていただいたので、その模様もレポートさせていただきます。
新作をどんどんエネルギッシュに生み出していく敏裕さんの今回の展示品は、静物画と今年2月に滞在していたイタリアの風景画が主に描かれている。
まだコロナ感染が拡大する前の、アルノ川に佇む若者たちの姿が何とも言えないほどに胸を締め付ける。一枚の絵を通して、その時の時代背景や社会問題、世界情勢を思い浮かべると、より感慨深いものがある。
旅する敏裕さんの眼差しが好奇心と優しさに溢れているのがわかるから、絵に描かれている街を無性に歩きたくなるのだ。
その好奇心は止まらない。ひとり旅のミケランジェロ広場へ向かう道中であえて違う道を選び、迷子になったとしても、目の前にそびえる糸杉をモチーフに作品を描く。
旅をすることは目的地へ向かう道中にもドラマがある。違う道を選ぶ好奇心があるからこそ色んな発見や偶然がある。一本の糸杉に心動かされて作品制作をする敏裕さんは、転んでもただでは起きない。迷子になっていなければ生み出されなかった作品である。
一本の道を照らす街灯の光が美しくあたたかくて、その街灯の上に天高くそびえる糸杉が、迷子になった敏裕さんの道しるべになり道案内してくれている物語が映し出される。
静物画と風景画を合わせた『イタリアのかぼちゃ』は面白い。かぼちゃの背景にある建物はサン・マルコ広場であろうか?かぼちゃの色と真上に伸びるヘタが、サン・マルコ広場の鐘楼(しょうろう)とシンクロしているように見えて非常に愉快である。
何故かかぼちゃに神秘的なものも感じられるし、お皿から飛び出たかぼちゃのタネもお茶目だ。
複数もの作品を見渡してく過程で、静物画と風景画の中に面白さを発見できるのは展覧会ならではの楽しさだ。
横に添えられたネギ、イチゴ、背後から見つめる二匹のネコ。一見そのチョイスも面白いが、配置や構成等がしっかりと考えこまれていて凄い。
前面に横に添えられたネギがあるから作品に安定感が生まれて、絶妙な間隔で赤いイチゴが置かれていることで色彩が寂しくならない。また背後から見つめるネコは、静物画をぐっと際立たせているのである。
動物をモチーフにして、あらゆる自由な発想で視覚に訴えかけてくる亮平さんの作品はお見事である。
ひとつの作品から物語を連想させて、一冊の絵本を作れそうである。
作品は物語のシーンの一コマで、この作品の前後にも魅力的な物語が紡がれていることを想像する楽しみがある。
ハイエナが巨大化することで、ライオンも困惑するのだ。
2020年、東京オリンピックは中止されたが、動物たちはオリンピックをしていた。
ユーモア溢れる動物たちのアニマリンピックは、実際に開催されていたら絶対に見たい。
円山応挙の犬が2020年にレスリングをすることになるとは夢にも思わなかっただろう。
『おいしい』は、さんまの水揚げに喜ぶネコの姿が面白い。
さんまの水揚げの絵にネコを二匹描き足すことで、絵の持つイメージが変わるから不思議だ。ネコ二匹が存在することで、確かに「おいしい」なのだ。
食べることの「美味しい」と、状況においての「おいしい」が描かれている。
伊藤若冲の秋塘群雀図(しゅうとうぐんじゃくず)と、芙蓉双鶏図(ふようそうけいず)の中にネコを描くことで魅せる新しい世界観と美しさ。
巨大なホワイトタイガーが水を飲んでいる壮大な美しい作品。
中央にホワイトタイガー、そしてその周りにありとあらゆる鳥たちが集まっている。
空、水辺、大地に拡がる無数の鳥たちが、作品を楽しく演出してくれている。
松の木に同化した優雅な孔雀も面白い。
鳥の一羽一羽まで無駄のない構図は、驚かされるばかりである。
亮平さんのワークショップに参加させていただいた。
実は開始時間から大幅に遅刻してきたのだが。どっぷり渋滞にハマッてしまったので、ワークショップは途中参加することに。
自分の好きな動物のフィギュアを選んでポストカードに絵を描く。
僕は好きなゴリラを選んだ。ゴリラは佇まいも動きもコミカルでユニークだから好きなのだ。
戸惑ったのが、下描きなしで直接紙に筆で色を塗ることである。
アキーラという画材を使って色を塗るが、早々に失敗してしまう。ゴリラのカラダ全体を描こうと思っていたが収まらず。下描きならば消しゴムで消しちゃえばいいが、もう塗っちゃているので、そのまま塗り続ける。
どんどん取返しのつかない自分の意図とは思わぬ方向へ進んでいくので、方向転換を繰り返しながらゴリラを描く。
タイムアップ!作品を額装して完成である。
しかし「動物」を描いていたはずなのに、僕だけ「怪物」を描いていたようだ。
上部の余白を誤魔化すために赤い色で雰囲気作り。誤魔化し続けた不本意な作品ではあるが、非常に楽しかった。
そしてワークショップ参加者の作品を並べて、ひとつひとつの作品に対して亮平さんのコメントと制作者の解説。
一人一人個性的で非常に面白い。
亮平さんは「絵を描くことの楽しさ」を教えてくれている気がした。
一人一人の作品を褒めて、作品の良いところを伝える。
その人の感じた色、その人が描いたものを大切にしてコメントする。
制作者が抱いた疑問やつまづいた点は、親切丁寧にアドバイスをしてくれる。
僕たちはあらゆる大人に怒られ続けてばかりいたのかもしれない。
否定されることもあった。
好きで始めたことが、いつしか嫌いになってしまう。
怒られない色で、否定されないワクの中で、当たり障りのない生き方を学んできた。
「絵を描くことは楽しい」「自分の好きな色を塗ればいい」「もっと自由でいい」
絵を描くことの楽しさ、絵を見ることの楽しさ、自由な発想で作品と向き合うことの楽しさを、亮平さんの言葉や語り口調、姿勢から僕は教えられたのである。
2020年、今年の親子展は特別な想い、忘れられないものになった。
コロナ禍の影響で多くの美術館が休館して展覧会等が中止に追い込まれた。僕も足を運びたい場が幾つかあったが諦めざるを得なかった。
「不要不急の外出は自粛を」と言われたが、僕たちの暮らしを心豊かに彩るのは「不要不急なもの」に他ならない。
いつまでもコロナに白旗を上げて中止をするわけにはいかない。何か月、何年先までこの状態が続くのかもわからない。また別の新しいウイルスが発見されるかもしれない。
そのために試行錯誤しながら開催した事例が多ければ多いほど、次の困難や危機に対応していくことが出来るはずだ。
今回、コロナ禍で親子展を開催するにあたって葛藤があったと思う。
だけども僕にとっては半年ぶりの県外であったし、今年初の展覧会であった。実に昨年12月の亮平さんの個展ぶりである。
フラストレーションが溜まっていた中で訪れた展覧会は、最高に「楽しい時間と空間」となったのだ。
松本敏裕展示作品
松本亮平展示作品
松本亮平YouTubeチャンネル |
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