白石和彌監督の『死刑にいたる病』を観たのだ。
『死刑にいたる病』 榛村の張り巡らされた洗脳。 逃れられない病。 監督:白石和彌 出演:阿部サダヲ 岡田健史 岩田剛典 |
櫛木理宇の小説『死刑にいたる病』を白石和彌監督が映画化したサイコサスペンス。
『死刑にいたる病』
櫛木理宇 (著) |
『彼女がその名を知らない鳥たち』の阿部サダヲと『望み』の岡田健史が主演を務める。
岩田剛典、中山美穂が共演。
『そこのみにて光輝く』の高田亮が脚本。
2022年製作/128分/PG12/日本
配給:クロックワークス
鬱屈とした日々を過ごす筧井雅也(岡田健史)のもとに、世間を震撼させた連続殺人事件の犯人・榛村大和(阿部サダヲ)から1通の手紙が届く。
24件の殺人容疑で逮捕され死刑判決を受け、そのうち9件の事件で死刑判決を受けている榛村は、「罪は認めるが最後の事件は冤罪だ。犯人は他にいることを証明して欲しい」と記されていた。
かつて筧井の地元でパン屋を営んでいた旧知の榛村の願いに応えるべく筧井は事件の真相を独自に調べ始め、想像を超えるほどに残酷な真相にたどり着く。
阿部サダヲの怪演が光る本作は、丁寧な口調や優しい笑顔、明るい振舞いによって、阿部サダヲの底知れない異常性と恐怖を演出している。
誰からも愛される気のいいパン屋の主人がシリアルキラーだとは誰も思わない。しかも彼が逮捕された後になっても彼を擁護する連中ばかりで、彼のことは悪く語られない。阿部サダヲ演じる榛村大和は「究極の人たらし」であり、周囲と信頼関係を築き洗脳していくことに長けている。
映画を視聴する者は客観的に榛村を俯瞰で観察することが出来るが、実際の暮らしに榛村が現れたとしたら心の警戒心は失くし榛村と親しくなってしまうであろう。
人の良さそうなパン屋の主人はきっとお客さんに愛され、近所の方々とフレンドリーな関係だったのではないか。
鬱屈とした生活を送る岡田健史演じる筧井の暗さには若干のストレスがあった。
邦画ではイケメンをキャスティングせざるを得ないのだろうが、「イケメンの鬱屈」は不自然で「何が不満やねん!」と思ってしまう。
これだけのイケメンならば、もっとモテていてもおかしくない。俯いて暗~く過ごしている筧井には違和感しかないのだ。
そんな筧井もまんまと榛村の手中にハマリ、榛村を信頼していく。更には「自分の本当の父親が榛村かもしれない」という疑いと「殺人鬼の血を引いている」のではないかとの興奮が筧井の鬱屈とした日常に拍車をかける。
多くのシーンが面会シーンで構成され榛村と筧井の会話を通して、榛村の洗脳術や筧井の動揺が観る者を巻き込んで静かなる恐怖に包まれていく。
面会シーンでは榛村と筧井を隔てたアクリル板を有効活用することで、アクリルに反射する顔や隔ているはずのアクリル板が消え、時には互いの手を絡ませて究極は中にいる榛村が筧井の隣まで移動して耳元で囁くのである。
何とか殺人を犯すことなく彼女を作り平穏な日常を手に入れようとした筧井に一件落着かと思いきや、そうはならない。
刑務官や母親が榛村に洗脳されていたように、筧井が心を許した彼女までもが既に榛村の洗脳に侵されてしまっている。もう逃れようがない。榛村の何年もかけて信頼関係を築く洗脳術は尋常じゃなく蜘蛛の巣のように張り巡らされているのだ。
阿部サダヲの怪演と白石和彌監督の見事な演出が独特の恐怖感に包まれた傑作を生んだ、といったところで「カット、カット」。
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