日本人のお正月映画の定番といえば『男はつらいよ』ではないだろうか。少なくとも僕にとっては、そうであったのだ。
少年の頃に母に連れられて兄と僕とでお正月に「とらさん」を観に行こうと映画館へ行くこととなった。
子供心に「トラさん?」と寅さんを知らない僕は、動物の虎を頭に思い浮かべていたのだ。
しかし映画が始まっても一向に僕の想像する「虎さん」は出てこず、出てきたのは人間の恰好をした渥美清が扮する「寅さん」であった。
少年であった僕は映画館で「寅さん」に大いに笑っていた。いやはや子供が観ても実に面白かったのだ。
それから「寅さん」を観に行くことは家族にとってお正月の恒例行事になっていたが、映画館で何度観て、いつ観に行かなくなったのかは定かではない。
僕が東京に住んでいた19歳か20歳頃には、母と母の弟と寅さんの舞台である葛飾柴又に観光にも行った。
そんな「寅さん」が22年ぶりにスクリーンに帰ってきた。
渥美清さんが亡くなって、その後も寅さんは愛され続けて、またスクリーンに甦った。
新作『男はつらいよ お帰り 寅さん』は、やはり映画館のスクリーンで観たかったのだ。
『男はつらいよ』の魅力である最大のひとつは、寅さんを取り巻く個性的な脇役陣の存在なのである。
本作ではお笑い芸人のカンニング竹山や出川哲郎が出演しているが、お笑い芸人の中でもいわゆるシュッとしていないボテッとした二人を起用していることが何とも憎らしい。
ちなみに残念だったのは、落語家の志らく師匠が志らく師匠のまま出演していたのは意味がわからなかった。面白くも何ともない無駄なシーンであったが、志らく師匠が寅さんファンであるだけで出演させたのか。もっと違う役どころで出演させていた方が面白かったと思う。
オープニングで主題歌を歌う桑田佳祐の映像シーンと並んで意味不明な登場であった。主題歌は良かったが登場させる必要があったのか。何のサービスだったのか。確かに『音楽寅さん』というテレビ番組をやってはいたが・・・。
それはともかくとして寅さん映画では脇役陣の個性も豊かだし、通行人一人一人、エキストラの一人一人にも山田洋次監督のこだわりが見えるから凄い。
どん臭そうだけど憎めない愛らしい現実的な登場人物の中に、完璧で非現実的な美貌を持つ後藤久美子やリリーを演じる浅岡ルリ子、またゴクミの母親役の夏木マリが登場することには、やや違和感も感じるのは否めない。
日常的な日本の風景でありながら、「こんな人は身近に存在しない」という女性陣が登場する。これは山田洋次監督の女性の趣味なのかもしれない。
昭和のトップ女優をその都度キャスティングして映画を撮るなんてのは、山田洋次監督の趣味としか思えない。さぞかし楽しい撮影であっただろう。
だが観客もまた、寅さん映画に出演するマドンナを毎回楽しみにしていたはずなのである。
個性的な脇役陣と完璧な美貌を持つマドンナの存在が、寅さん映画の大ヒットの要因に欠かせない理由である。
後藤久美子に関しては、国民的美少女から国際的美女に変貌を遂げている。
寅さんの甥っ子である妹さくらの息子、吉岡秀隆演じる満男の「クセがスゴイ!」。
いいオジさんになった満男の、いつまでたってもナヨナヨしたナレーションとフニャフニャした役どころに愕然とする。『北の国から』の純を見習って欲しいぜ!
小説家になった満男が書店でサイン会をするのだが、ナヨナヨのクセが強すぎてお客さんの顔をまともに見ないでイヤイヤながら辛そうにサインをする。サービス精神ってものが全然ない。寅さんの愛嬌たっぷりの口上を見習って欲しいぜ!
そんなナヨナヨした満男だが、いざモノを言う時には感情を抑えられないほどに声を荒げるほどにクセがスゴイのだ。
寅さんシリーズが誕生してから50年の50作品目という歴史ある映画で、渥美清さんが亡くなって、それでも今回復活した本作は、それは文句なしに凄いことである。
年を重ねたキャストたちの変わらぬ温もりが嬉しい。
皆、渥美清さんを尊敬して寅さんを愛しているのだ。
すぐに感情的になってギャーギャー喚く単細胞な美保純や夏木マリには参ったが、彼女たちも作品には必要なスパイスであり、物語には欠かせない存在であり、魅力的なキャストであるからこそ『男はつらいよ』は凄い。
本作は寅さんの回想と、満男とゴクミ演じるイズミが再会することによって繰り広げられる新たな物語が堪能出来る。
劇中でキャストの皆が寅さんを回想するように、僕も寅さんを懐かしむことが出来て個人的に楽しかった。
「お帰り、寅さん」
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