長渕剛20年ぶりの映画主演『太陽の家』を観てきたのだ。
前作『英二』も20年前に東京の吉祥寺で観に行ったなぁと感慨深げに浸りつつ、剛ファン歴30年の僕は公開日当日にせっせと映画館に駆け込んだのだ。
『太陽の家』 長渕イズムが詰まった、 泣きと笑いだけじゃない不思議な映画。 監督:権野元 出演:長渕剛,飯島直子,広末涼子 |
2019年にデビュー40年を迎えたツヨシ兄キの「英二」(1999年)以来20年ぶりとなる映画主演作だ。
人情に厚く、大工の腕は神技的な棟梁・川崎信吾を長渕剛が演じる。
本作では長渕剛はヤクザな役ではなく、大工の棟梁といった今まで長渕剛が演じたことがない役どころだ。むやみやたらに人を殴ったり蹴ったり刺したり撃ったりしないのだ。
剛はカンナを手に、木を相手にして無心で削っているのである。
川崎信吾のしっかり者の女房役に飯島直子。二人には年ごろの娘がいて娘役には、山口まゆ。
川崎は好みの女性に弱く、現場で仕事に励む川崎の前を通りかかったのが、保険会社の営業ウーマン・池田芽衣。池田芽衣役を広末涼子。
芽衣は1人息子の龍生とともに暮らすシングルマザー。龍生役に潤浩。
監督は『TRASH トラッシュ』『アラグレ』の権野元。
『太陽の家』
2020年製作/123分/G/日本
配給:REGENTS
こわもてで人情が厚くやんちゃでありながら、神業的な腕を持つ大工の棟梁・川崎信吾は、仕事を支え家庭を守ってくれている妻と年ごろの娘がいるにも関わらず、好みの女性には弱い。
ある日、現場に出ていた川崎は、保険会社の営業・池田芽衣と知り合うことになる。
芽衣がシングルマザーで、龍生という父親を知らずに育った息子がいるのを知り、何かと面倒を見るようになっていく。
本作は家族愛をテーマにした映画であるが、「不思議な映画だったなぁ」というのが僕の感想だ。
剛と広末涼子の出逢いのシーンから、広末の家にお邪魔していく下りなんかは「んな、アホな!」という安直な展開であったが、それには広末に裏の事情があり、「そりゃそうね」ということで一応納得。
それにしても剛も広末もなかなか図々しい役どころで遠慮というものを知らない。初対面の女性の家に上がり込んで勝手に椅子に座り、いきなりカレーを食べてしまう厚かましさ。女好きでお調子者という剛の役を考慮すれば、それもまた良しとしよう。
家族愛という真っ向からのストレートな家族愛の映画であるのかと思っていたが、随所に垣間見える長渕剛イズム。どうもこの脚本は剛へ当て書きしたのではないだろうかと思えるほど、他の人のキャスティングはありえないと思ってしまう。
昔のヤクザなイメージの剛ではなくて、現在の剛への当て書き。
筋トレシーンなんかは他の役者ではない、剛ならではだろう。大工の棟梁である剛はバーベルなんてものを使用しない。一本の丸太を持ち上げてふんふんと筋トレするのである。60代とは思えない肉体と体力に感心してしまう。
剛の表情が深くて素晴らしい。怒り、笑い、吠え、そして涙を堪えるシーンの巧さは人間の深さが滲み出ている。
男としての逞しさ、頼りがい、強さや優しさ、愛情の深さが本当に伝わってくる。
カメラアングルも不思議な映画だという印象を与えた。時にカメラ主観の顔面どアップと、上部から撮影されたロングショットの映像が凄く印象的で不思議な効果を演出していた。
また不穏な音楽が流れていたり、良からぬことが起こる予兆みたいなものが、観ている者への心理的な不安を与えるのであった。
物語も単純なようで不思議であった。棟梁の妻である飯島直子が「ハンパなことすんじゃねーぞ!」と剛に吠えるが、それにしてもちょっと知り合った女性の家を建てようなんて発想になるのかね。確かにハンパじゃできない。剛なら一人の女性に向けてラブソングを作ることもあるだろうが、家だぜ、家。
何とも不思議な映画なのだ。
家族愛といえば、もう皆が皆、感情を爆発させるのが今も昔も世の常というものであろう。
ドラマ『寺内貫太郎一家』では、家族ゲンカは当たり前。ちゃぶ台をひっくり返して暴れ回るというのが父親の姿だったのである。
『ひとつ屋根の下』でも、しょっちゅう兄弟ゲンカが繰り広げられていた。
家族は家族という「気を遣わない関係」なので、そりゃ感情を露わにしてお互いの感情をぶつけ合うのだ。
血の繋がりはないものの剛と親子関係である瑛太が、ずっと怖い。
登場するたびに怒っているのだから怖いよ。
娘役の山口まゆちゃんも怒り狂う。
妻の飯島直子だって剛にビンタ喰らわしちゃうんだからタダ者じゃない。肝っ玉母さんなのだ。
もちろん剛だって怒鳴る。
家族ではない広末だって情緒不安定だから剛に怒り散らす。
もう皆何なのよ、怖いよ。
この家族の輪には決して入れないなぁと僕は思わざるを得ないのである。こんなに怒られるのイヤだもん。
だけど最後には皆ハッピー、笑顔で家族愛しちゃっているから何の問題もないのだ。
つまらなくはないし、すっげー面白かったわけでもない、とにかく不思議な映画であったのは個人的な感想。
長渕剛がカッコ良かったのはもちろん、涙腺うるうるとしたところも何度かあったし、二時間を飽きさせない色んな感情にさせてくれる映画であった。
「もう一度観たいか?」と問われれば、これも「もう一度観たい」映画なのだ。
パンフレットも購入した。
自分が剛ファンであるから色んな感情を織り交ぜて観てしまったのか、もう一度、ゆっくりとじっくりと観たい映画になった、というところで「カット、カット」。
太陽の家主題歌『Orange』 |
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