演劇畑の松尾スズキだからこそ描ける世界観。
個性的な脇役陣の起用は、まさに演劇的で、一人一人の個性を大切に描いている。
『108~海馬五郎の復讐と冒険~』 映画冒頭の前フリがあってから展開される物語。 前フリを無視してオチを付けないラストに興ざめ。 監督:松尾スズキ 出演:松尾スズキ,中山美穂,大東駿介 |
劇団「大人計画」を主宰する松尾スズキが監督・脚本に加えて主演も務めて、妻の不貞に対して108人の女性を抱くというカタチで復讐を決行する男の姿をR18+指定で描いたオリジナル作品。
妻を中山美穂が演じるほか、岩井秀人、秋山菜津子、坂井真紀らが共演。
主題歌は「大人計画」所属の音楽家である星野源。
2019年製作/102分/R18+/日本
配給:ファントム・フィルム
脚本家の海馬五郎(松尾スズキ)は、元女優の妻・綾子(中山美穂)の浮気をSNSの投稿を見てショックを受ける。
海馬は離婚を決意するが、財産分与で1000万円を妻に支払わなければならないことを知る。
資産を使いきって、妻の浮気投稿についた108もの「いいね!」の数だけ女を抱くという復讐に挑む。
「大人計画」の松尾スズキが監督・脚本・主演で中山美穂と夫婦役であるから面白そうな感じはしたが、「なんでこの映画を撮りたいと思ったのだろう」と正直不可解であった。
松尾スズキがただ自分の変態性と性欲をぶつけたかった気がしないでもない。
自分が監督・脚本・主演で女優さんたちと裸で絡み合うというのは、僕の神経では出来ない。アダルトビデオでの村西とおる監督ならば理解出来るが、自らが脚本を書いて演出して女優さんと絡み合うというのは、公私混同して変態性のはけ口として作品を撮っているのではないか?と疑わしい。
確かにこの主人公を演じられる人が他にいるのか?と考えたら該当する人がいなくて、松尾スズキ監督本人が主演するのは間違いないようだが。
ミュージカルタッチになる演劇的な要素があったのは本作の魅力的なひとつだが、どうせなら『ラ・ラ・ランド』ぐらいの世界観でシーンを一変させて歌い踊り出した方が映像的にはメリハリがあって面白かった。
ミュージカル映画ではないにしても、随所にミュージカルシーンが散りばめられていた方が良かった。デリヘリ嬢と歌い踊り出したり、友人とのエッチが妹に目撃された時など、主人公の「内なる声」を表現する時に活用すれば笑いどころが増えた。
それでも劇団を主宰する松尾スズキが描くからこそ、舞台のコメディーのように次から次へと繰り広げられる展開は飽きることなく観ることが出来た。
僕が一番ガッカリしたのは、一番肝心なラストである。映画冒頭に、船の上で妻からの電話に出た主人公は、「夫婦の関係をどうするのか?」という回答を問われる。それが前フリとなって一か月前にさかのぼり、主人公の復讐のキッカケなどが展開されるのだ。その主人公の回答をラストで知るために映画を観ている人たちは、散々主人公のアホさぶりに付き合ってきたのだ。だがラストで主人公は答えを出さないまま、ぐるぐると悩んだままオチを付けずに、まるでハッピーエンドかのようにエンディング曲が流れてしまうのだ。
映画の冒頭での前フリからつながる一番大事なラストをあやふやなカタチでぼかしたことが許せず、「あー、面白かった」という想いよりも僕は「怒り」の感情がわいたのである。
あのラストだけはストレスになった、というところで「カット、カット」。
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