評判が良い『ジョジョ・ラビット』を観た。
『ジョジョ・ラビット』 少年ジョジョを通して映し出される戦争の残酷。 喜劇と悲劇の対比が感動を呼ぶ。 監督:タイカ・ワイティティ 出演:ローマン・グリフィン・デイヴィス,トーマシン・マッケンジー,スカーレット・ヨハンソン |
第2次世界大戦時のドイツに生きる人びとの姿を、ユーモアを交えて描き、第44回トロント国際映画祭で最高賞の観客賞を受賞した人間ドラマ。
『マイティ・ソー バトルロイヤル』のタイカ・ワイティティが監督。
ヒトラーを空想上の友人に持つ少年の日常をコミカルに映し出して、俳優でもあるワイティティ監督がアドルフ・ヒトラーに扮した。
主人公のジョジョ役をローマン・グリフィン・デイビス、母親役をスカーレット・ヨハンソン、教官のクレツェンドルフ大尉役をサム・ロックウェルがそれぞれ演じる。
第92回アカデミー賞では作品賞ほか6部門でノミネートされて、脚色賞を受賞。
2019年製作/109分/G/アメリカ
原題:Jojo Rabbit
配給:ディズニー
第2次世界大戦下のドイツで、10歳のジョジョは、空想上の友だちであるアドルフの助けを借りながら、青少年集団「ヒトラーユーゲント」で立派な兵士を目指していた。
だが訓練中にウサギを殺すことができなかったジョジョは、教官から「ジョジョ・ラビット」という不名誉なあだ名をつけられる。
母親と二人で暮らすジョジョは、ある日、家の片隅に隠された小さな部屋に誰かがいることに気づいてしまうが、それは母親がこっそりと匿っていたユダヤ人の少女だった。
最初は嫌悪感のあったビジュアルポスターである。多くの人たちを虐殺したヒトラーをコメディータッチに描くというのも笑えない。
しかし、『ジョジョ・ラビット』という新作映画が割と評判がイイっぽいので、食わず嫌いはやめて観てみることにした。
中盤当たりで「なるほど!こういう描き方があったか!」と納得したのである。
主人公である少年ジョジョは、戦争という時代背景の中でナチスに信仰を抱きヒトラーを敬愛する。それはその国に生まれて、その国に育ち、時代が戦争という状況下ならば、致し方のないことかもしれない。
ジョジョは妄想で作り上げたヒトラーと対話をしながら、自分の家の中で母親がかくまっているユダヤ人の少女エルザと出逢うことによって、「ユダヤ人も何も変わらない同じ人間である」ことを知る。
そう、ジョジョの持つ愛国心やヒトラーを異常なまでに敬愛させることによって、中盤でのユダヤ人との心の交流や母親ロジーの処刑、そして終盤での戦争の惨たらしい現場を目の当たりにさせることでジョジョは「戦争という恐ろしさ」を知るのである。
これが元々、ジョジョが「戦争なんてしたくない」という少年であったとしたのなら、この映画の振り幅は弱くなるのだ。
ジョジョが戦争というものに純粋に洗脳されているからこそ、その洗脳が融けていく過程や、目が醒めた時の対比が大きく、映画の持つ物語の感動も大きくなるのだ。
またコメディータッチに描いていたからこそ、喜劇と悲劇の対比も大きくなり、観ている者の胸を締め付けるのである。
ラスト、大尉はジョジョの軍服を脱がして「このユダヤ人め!」と言ってツバを吐きかけ遠ざける。そして大尉だけが処刑されるのである。
この映画では、ジョジョにとって大事な人たちの死を直接的に描かない。処刑されたロージーは首を吊られた足元だけを映して、大尉は壁の向こう側で射殺音だけで表現させた。
僕の好きな映画『ライフ・イズ・ビューティフル』を思い出せた。あの映画でも大人たちは子供に明るく振舞った。戦争という過酷な状況下の中で、子供を笑顔にさせようとしていた。
『ライフ・イズ・ビューティフル』 |
それは凄く大事なことだ。現代の日本においては大人は暗い顔をしている。どれだけ社会が腐っていても、子供を笑顔にさせることが大人の務めである。
ジョジョが戦争というものに対しての心象が変化したように、一見不謹慎な映画であると思った『ジョジョ・ラビット』も、観る前と観た後では心象に変化があったのだ。
監督の手腕に唸るばかりである、といったところで「カット、カット」。
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