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松本敏裕展『イタリア慕情』写真では表現できない世界

12月19日、松本亮平展から徒歩2、3分に位置する銀座・京橋のGalerie Floraisonで開催されていた、亮平さんの父の『第四回松本敏裕展~イタリア慕情~』に行ってきたのだ。

今年の夏に横浜市で開催された亮平さんとの『親子展』とは違ったカタチで親子の作品が鑑賞出来るという、贅沢で嬉しい展覧会である。

 

少年の心と、優しい眼差し

 

敏裕さんが描くイタリアの情景は、今、その街を歩いているかのような錯覚を起こさせてしまう程に、空気感が伝わってくる。

陽射しの温もりが肌感覚で感じられて、街行く人の息遣いが聴こえてきそうな体験を鑑賞者にさせてくれるのである。

VRのような疑似体験ではなく、優しい空気感に包まれるリアルな体験に触れられるのだ。

運河の見える路地』という作品では、視線の先の一番奥に運河を「少しばかり」見せていることが、何とも素晴らしい。

目の前を歩く猫、古びた建物の隙間を暗く描写した先に一筋の光が射しこむように見える運河は、そのさりげない美しさの表現に吸い込まれてしまいそうである。

また遠方に人影が見えることによって、運河の美しさが際立っている。

イタリアの情景を描きながら、日本人の持つ奥ゆかしさが表れていて、作者の上品さが見えるのである。

リアルト橋のたもとから』は、橋中央の撮影スポットに人々が集まっている。その様子を橋のたもとからの視点で描写しているという、非常に愉快な作品である。

撮影スポットから見た情景を描くのではなく、撮影スポットで撮影をしている人たちを描くことで、よりリアルト橋の雰囲気や様子が伝わってくるから不思議である。

その発想の柔軟さがアートを表現する者にとって大事であり、作品の持つ大きな魅力に繋がっているのだ。

中でも僕が好きな作品は、『コッレオーニ騎馬像』である。

アンドレア・デル・ヴェロッキオによって制作された騎馬像は、ルネサンス時代の彫刻であり、ヴェネツィアのサンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ広場に建てられている。

馬が足を上げて動いている瞬間を表現するには、三本の脚でブロンズの重さを支える安定性に問題が生じてしまうのだが、ヴェロッキオは三本脚の騎馬像の制作を初めて成功させた人物なのだ。

ヴェロッキオは制作半ばで亡くなり、弟子によって完成させたものだという。

敏裕さんが描く『コッレオーニ騎馬像』の魅力は、そのカッコいい構図である。

真正面から描くのではなく、真横から描き、力強く空を見上げる様子が表現されている。コッレオーニ騎馬像を中央に、左半分を広がる青い空、そして右半分をサンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ聖堂が描かれている。

この構図を見せるために意図的に真横から描かれたのだろうか。直感的な感性なのだろうか。

西郷隆盛像を真正面から描く人はいても真横から描く人は珍しいように、その感性に驚かされる。

敏裕さんは、コッレオーニ騎馬像に関する逸話を僕に語ってくれていたのだが、確かにコッレオーニ騎馬像が制作された逸話を知っていれば、馬が足を一本上げているところに注力した場合、真横から描くのがヴェロッキオの制作過程での苦労に敬意を払った構図であるのだ。

優しい眼差しで描かれたイタリアの情景は、写真では表現できない世界が映し出されている。

敏裕さんのエネルギッシュさには、毎度尊敬の念しかない。

少年のような心が色んな発見を見つけ出しては、創作意欲を掻き立てられて、今日もまた筆を走らせているのだろう。

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