諸星大二郎先生に興味を抱いて購入した『壁男』。
中身は短編集で文庫本での収録漫画は『壁男』の三部作とその他の短編が八編収録されている。
『壁男』
諸星 大二郎 (著) |
諸星大二郎先生の描く独特なタッチが魅力的で、(失礼ながら)上手さも派手さもないが、丁寧に細かく描き込まれた一コマ一コマが不思議な物語への説得力を表している。
文学的であり芸術的であり、小説的であり映画的でもある、何とも形容しがたい漫画なのだ。
『壁男』は壁の中に潜む男の物語で、第三者が壁男の存在を意識して解説するのではなく、「俺は壁男だ」という壁男自身からの解説から始まる。
壁男目線で語られる物語が諸星大二郎先生の画風とマッチして、実に味わい深い作品である。
それが一転『壁男 PART2』では、壁男目線から語られることはなく、壁の外にる女性目線で語られることになる。
なかなか珍しい表現だと思うが、違和感なく読み進めることが出来る。
そして『壁男 PART3』では、壁男目線でも女性目線でもなく、壁の外にいる男性目線で語られていくのである。
『壁男』三部作を描くにあたって、物語を引き継ぎながら主役を交代させていく。
それぞれの目線で語り解説されていく「壁男」の不思議を、静かに奇妙に描く発想力の豊かさと物語の構成力の上手さに、諸星大二郎先生の達人ぶりが伺える。
ダイナミックな表現で物語を大胆に表現するのではなく、不思議な世界を日常風景に溶け込ませているのだ。
旅人の物語では、不思議な土地で当たり前のように暮らしている人々を描いて、不思議な光景をまるで日常生活のように描いている。
日常生活なので、特に大きな事件がるわけでもない。
不思議な光景が当然の如く日常に溶け込んでいる。
例えば「犬」が不思議な生き物だとすれば、人間のペットとして暮らす「犬」は第三者から見れば不思議な光景ではあるが、「犬」と暮らしている人間にとっては何の変哲もない日常の姿なのだ。
不思議な出来事を不思議な想いを残したまま物語は終わる。
壁男が何たる者なのかは解明されぬまま、旅人が体験した不思議な世界は不思議のまま、一応物語は完結される。
漫画の中での物語が終わっても、まだまだ続いていく不思議な物語を読者に想像させる余地を残しているのだ。
収録された全ての物語を読み終えた後、自分の生きている日常生活がほんの少し不思議な世界と繋がっているかのように見える。
ふとした瞬間に、誰しもが不思議な扉へと迷い込んでしまうのかもしれない。
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