高橋ヨシキ監督の『激怒』を観たのだ。
『激怒』 オジサンの怒りは日本人の不満の暴発。 抑圧された社会と権力に、激怒!! 監督:高橋ヨシキ 出演:川瀬陽太 小林竜樹 奥野瑛太 |
アートディレクター、映画ライター、デザイナーとして活動する高橋ヨシキが企画・脚本・監督を務めたバイオレンス映画。
川瀬陽太が主演を務め、小林竜樹、奥野瑛太、彩木あや、森羅万象らが共演。
2022年製作/100分/R15+/日本
配給:インターフィルム
激怒すると誰彼構わず暴力を振るう中年刑事・深間(川瀬陽太)は、不祥事を重ねた揚げ句に死者まで出してしまった。
彼はニューヨークの治療施設に送られ三年後に帰国するが、かつて自分が暮らしていた富士見町の様相が一変しているのに驚く。
町内会メンバーから成る自警団が巡回する町で、「安全・安心」のスローガンを掲げて高圧的なパトロールを繰り返して、深間は怒りを爆発させ、たったひとりで自警団の壊滅に挑む。
映画ライターの高橋ヨシキさんが監督を務めるということで気になって観た本作。
暴力刑事が激怒して暴力を振るいまくる設定だけで観たくなる衝動に駆られる。
「安全・安心」の富士見町を自警団が町をパトロールして、暴力によって町民を制圧している様子が滑稽であり恐怖でもある。
町民たちが集結した自警団であるが故に、自警団の連中が「弱そう」なのは気になる。確かにフツーの町民たちが洗脳されたように正義のために暴力を行使することは怖いが、こんな集団本気で戦ったらすぐに倒されてしまう。何を皆、ビビッているのだろう。その背後に見える大きな組織や権力が怖いのか。
自警団から逃げ、隠れて生活している若者たちには「他の街に行けばイイやん」と思うがそれは出来ないのだろうか?富士見町を囲う大きな壁でもあるのだろうか。脱走出来ない宗教施設や北朝鮮の国の話ならともかく、ただの日本の小さな町の中での話だ。イヤならば他の街に転居すればイイだけ。
そんな疑問は多く浮かぶが、設定自体が不気味なコメディーのようなホラーなのでツッコミを入れることはナンセンスなのか。ツッコミどころは置いといて、奇妙な町民たちと町長や警察に立ち向かう図式は面白く、結局暴力で解決させていく流れも痛快。
主演の川瀬陽太の表情や佇まいが本作の大きな魅力のひとつ。オジサンが歯を喰いしばり、オジサンが悲痛な顔を浮かべ、オジサンが激高する表情にカタルシスがある。
オジサンの怒りは富士見町を舞台にしただけの日本の縮図のように、鬱屈した窮屈な日本のオジサンの代表として社会へと暴発しているようだ。
オジサンは間違いなく我々の不満が生んだモンスターでありヒーローなのだ。
皆の大きな不満、小さな不満、抑圧された社会の中で蓄積されたフラストレーションが「激怒」に変わる。
自警団も権力者も次から次へと皆殺し。血しぶきが舞い、ぶん殴った自分の腕から骨まで飛び出しても殴り続ける。
自警団が暴力を楽しむ様子や主人公がニューヨークの治療施設に送られ結局暴力に目覚める様子は、まるで『時計じかけのオレンジ』のよう。
不気味さを増長させる独特な音楽、編集、怒りや暴力を主軸にしながらも不快にさせないエンタメ作品であった、といったところで「カット、カット」。
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