塚本晋也監督の『冒険監督』を読んだ。
塚本晋也監督は僕が最も尊敬する映画監督である。
自主制作で数多くの映画を作り、しっかりと海外を見据えて映画を届けている。国内外で評価されているが、偉そうにせず謙虚な姿勢で、途切れる事のない情熱を抱き映画創作を継続している。
本書『冒険監督』は、「映画作りとは、冒険です」という言葉から書き綴られている。
映画監督塚本晋也の、最新作『斬、』までの映画作りの冒険の書だ。
ドラゴンクエストのようなRPGの冒険が始まるようなワクワク感が、その一行で表現されて、これからどんな困難、挫折、そして栄光があるのか、今まさに大きな空と広大な大地を歩まんばかりに、その冒険の書を読み進める。
映画の予算がない中での、リアルに見せるための頓智と実践が面白く綴られていて、塚本監督の映画愛が沸々と本書から湧き出ている。そしてそれは、映画作りの情熱があれば、四苦八苦しながらも何とか乗り越えられるという、モノづくりをする人間にとっては大きな勇気を与えてくれている。
塚本監督の落ち着いた物静かな語り口調、どこか遠くを見つめるような視線、物腰の低い謙虚な姿勢、しかし内側から溢れた爆発する創作意欲には、心から敬服する。世の中には残念ながら、過去の栄光にいつまでもすがりつき、偉そうにしているだけの人が多い。塚本監督は今もなお懸命に走り続けて、自分の作りたいモノへの衝動を、ずっとずっと持ち続けているのだ。
『野火』では自ら配給宣伝をして、不慣れであったSNSの活用や、全国の劇場へ舞台挨拶に行く等、とにかく監督自身が動きまわっている。コツコツと自分の足を使い、せっせと活動を続けている姿は、溢れる才能だけではなく地道な努力が見える。
自身の映画で多くの出演もする塚本監督は『東京フィスト』ではボクシングの練習、『バレットバレエ』では実弾での射撃練習、『斬、』では時代劇の殺陣等、モノづくりへの狂気な執念と情熱が凄い。
実際、筋肉粒々で登場した『東京フィスト』『バレットバレエ』は、狂気に満ちていて驚かされた。瞳、肉体、放つオーラまで気迫に満ちている。
ギックリ腰になりながらの、『斬、』の殺陣エピソードにも笑った。
様々なジャンルを撮りながらも、塚本監督ならではの塚本節というかスタイルがある。
ディレクターズチェアに座った事がないという塚本監督は、動き回り、走り回り、映画作りという冒険の中で戦っている勇者なのだ。
『冒険監督 』 |
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