香取慎吾の新境地、真骨頂。
『凶悪』や『孤狼の血』の白石和彌監督が描く『凪待ち』は一見の価値あり。
『凪待ち』同情するに値しないクズ。 |
『孤狼の血』の白石和彌監督が、香取慎吾を主演に迎えて描くヒューマンドラマ。
『クライマーズ・ハイ』の加藤正人が脚本。
人生につまずき落ちぶれた男の喪失と再生を描く。
『くちびるに歌を』の恒松祐里、『ナビィの恋』の西田尚美、『万引き家族』のリリー・フランキーが脇を固める。
2019年製作/124分/PG12/日本
配給:キノフィルムズ
木野本郁男(香取慎吾)はギャンブルから足を洗って、恋人の亜弓(西田尚美)と亜弓の娘の美波(恒松祐里)と共に亜弓の故郷である宮城県の石巻に移住。
郁男は印刷会社で働き始めて新しい生活が始まる。
ある日、亜弓とけんかした美波が家に帰らず亜弓はパニックになる。亜弓を落ち着かせようとした郁男は亜弓とケンカして車から降ろしてしまう。その夜、亜弓が何者かに殺される。
僕はクズが嫌いではない。むしろ映画においては好きで、武正晴監督の『百円の恋』や是枝裕和監督の『万引き家族』で描かれているクズには非常に好意的なのである。
本作『凪待ち』での香取慎吾は、そんなクズ好きな僕をも「何こいつ、どーしようもないな。同情する気にもなれない」と思わせてしまうのであった。
色んな人の優しさによって助けられているにも関わらず、ギャンブルとケンカによって身を滅ぼしていく。
クズはクズならば誰にも相手にされず孤独であるならば同情の余地はあるが、クズであるにも関わらず、何故か主人公は周囲に支えられているのである。周囲の人の優しさをいとも容易く踏みにじるのである。
主人公には自覚症状があり「わかっているけど、やめられない」ギャンブル依存症なのではあるが、それにしても「こいつダメだな」と思わざるを得ない。
やがて、いやいや僕も同じだ。僕だって同じようにクズなんだと自分自身のクズさを自覚して映画を観ている僕がいる。
しかし、「待て、待て。クズを演じている香取慎吾は大スターで、本来クズとは真逆。華々しいスターではないか」と気づく。リアルクズなのは僕だけではないか!と映画を観ながら絶望するのであった。
そんなクズ談義は前置きとして、本作の「同情の余地がないクズ」をスターの香取慎吾が演じる。今まで見せたことのない顔、役柄であろう。
香取慎吾の作品を全て観ているわけではないが、『凪待ち』は香取慎吾の新境地、今までの作品の最高傑作である!
輝かしいスターでありながらクズを演じられるキャパシティーまで備えているとは、恐ろしい才能である。
脇役陣のキャスティングや演技も最高に良く、白石和彌監督の優秀さが際立つ。
冒頭に出てきたナベちゃん、亜弓の元夫や印刷会社の同僚やヤクザ、美波の同級生、皆本当にイイ顔している。
リリー・フランキーはどの作品を観てもバケモノ級に演技が上手いので、敢えて言うのもナンセンスだが本作での小野寺もリアルであった。服装の着こなしや不自由な足での歩き方、親切な男ではあるが不器用でぎこちない仕草は、リリー・フランキーにしか演じられない存在感であった。
そんなプロフェッショナルが集結した『凪待ち』はオススメの映画であるというところで、「カット、カット」。
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