武正晴監督の作品ということで『銃』を観てみた。
『銃』 銃を拾ったことによる青年の巧みな心理描写。 武正晴監督の演出が凄い。 監督:武正晴 出演:村上虹郎 広瀬アリス リリー・フランキー |
芥川賞作家・中村文則の同名デビュー作を『百円の恋』の武正晴が監督、村上虹郎と広瀬アリスの主演で映画化。
主演・村上の父である村上淳も出演、『2つ目の窓』以来の村上父子の共演作。
2018年・第31回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門に出品、同部門の監督賞を受賞。
2018年製作/97分/R15+/日本
配給:KATSU-do、太秦
大学生の西川トオル(村上虹郎)は、河原で偶然銃を手に入れたが、密かに銃を持ち歩くことで、緊張とスリルで心が満たされていた。
彼は同じ大学のヨシカワユウコ(広瀬アリス)に興味があり、またどんどん銃の魅力に取りつかれていく。
だがある日、刑事(リリー・フランキー)が突然訪ねてくる。
武正晴監督は、やはり凄い。人間の心理描写や暮らしを表現させることの上手さは群を抜いている。
銃を拾ったことで精神が翻弄されていく大学生の物語であるが、当初は「スケールの小さい話だな」と正直思った。
銃を大学生が拾っちゃうって、それこそ大学生の自主映画みたいな物語である。
しかし、そんな物語をぞくぞくとさせる心理描写が迫ってくるのだ。
もともと小説の原作があり未読ではあるが、小説の中で緊張感やダークな精神状態に堕ちていく文章表現がなされているのであろう。
彼の暮らしの中で、彼を取り巻く友人や女性との関係、そして家庭環境、また隣人の母子。大学生の日常による自分の生活環境の中で、彼は一丁の銃を拾ったことで、何かに憑りつかれたかのように徐々に変化していく。
静寂なシーンで音楽だけが加速していく。彼の何かが壊れて狂い始めるのだ。
銃を持てば「初めに動物を撃ちたくなる」。それはまさに銃を手にした者の心理状態かもしれない。そして、その後には人間を撃ちたくなるものだ。
少しブルーがかかったようなモノクロ映像で映画は進行されていく。
大学生の青年の心理状態なのか?彼にとってのモノクロな暮らしがある。友人もいて、遊べる女性もいて、また好意を寄せあう女性もいる。何が不満があるわけでもないのに、何かモヤモヤしたものを心に秘めている。不幸ではないが幸せでもない。そんな鬱屈した青年が、銃を手にした時は興奮しているのだ。
猫を撃った時、彼は笑みを浮かべて嬉しそうに走り去っていく。
隣人を撃とうとした時は、さすがに恐怖と興奮状態で錯乱していた。
不運なことに電車内で彼は「殺したくなるようなヤツ」に遭遇してしまう。
個人的には、僕も拳銃を所持していたら撃ちたくなるようなヤツなので「よくやった!」と称賛してあげたいが、世の中、善人も極悪人も殺害してしまえば罪になる。
銃を持つということは、防衛にならないと僕は思っている。
でかい話では核兵器の問題があるが、核兵器を国が保有することで他国から責められる防衛になることは確かだが、核兵器を保有している国は「それを所有する」危険性が極めて高い。核兵器を持っている国が、しょっちゅう揉め事を起こして戦争に発展したり、戦争が起こりそうになっている事態に見舞われている。
自己防衛のために護身術や格闘技を習う人も多い。しかし、格闘技の技術を身につけた人はトラブルに巻き込まれる機会が増えるのだ。
自分を守るために、誰かを守るために、格闘技の心得があると使いたくなるのが心情である。
ましてや銃なんて所持していたら気にくわないヤツを撃ってしまうかもしれない。変な輩に絡まれたら勢いで撃ってしまうかもしれない。
戦争というものが決して「悪」対「悪」ではないように、お互いの「正義」と「正義」のぶつかり合いの中で人を殺めているのである。
ラスト、銃を遂に人間に向かって発砲して殺害してしまった瞬間、スローモーションになり、モノクロから色鮮やかなカラーになり鮮血が飛び散るのだ。
血の中に落とした弾丸を拾おうとする描写等、ラストシーンは最高の見どころである。
それにしても主演の村上虹郎は、繊細な演技をしていて良かった。
武正晴監督はやっぱり凄いなぁと思ったところで、「カット、カット」。
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