子供の時、なんとなしに観たぶりに『ザ・フライ』を観た。
『ザ・フライ』 完璧な傑作! ハエ男の悲哀が同時に恐怖を描く。 監督:デイビッド・クローネンバーグ 出演:ジェフ・ゴールドブラム ジーナ・デイビス ジョン・ゲッツ |
科学者が実験ミスによって蝿男になるまでをリアルに描くホラー映画。
58年作『蝿男の恐怖』をリメイク。
『ヴィデオドローム』のデイヴィッド・クローネンバークが監督。
スチュアート・コーンフェルドが製作。
ジョルジュ・ランジュランの『蝿』(早川書房刊)をクローネンバーグとチャールズ・エドワード・ポーグが脚色。
ジェフ・ゴールドブラム、ジーナ・デイヴィスが出演。
1986年製作/96分/アメリカ
原題:The Fly
配給:20世紀フォックス映画
科学者のセスは記者のベロニカに開発中の物質転送装置を公開したが、生物の転送実験で失敗。
だが、やがてセスは自らの体を転送することに成功。
しかもその後、彼の体には驚異的な活力が備わるのだが、転送装置に一匹のハエが紛れ込んでいたこと、そしてそれが転送後にセスの体と遺伝子レベルで融合したことを知ってしまう。
彼の肉体はみるみる変化していく。
子供の頃、テレビで『ザ・フライ』は何度か放映していた記憶があるのだが、あらためて作品を観ると「この作品をよくテレビで放映していたなぁ」と思った。しかも深夜ではなくて夜9時~の時間帯で。
プロレスがゴールデンタイムで放送されて当たり前のように流血映像が映し出されていた時代だから、それもそうか。良き時代であったとあらためて思った。
子供の頃は『ザ・フライ』という作品をフツーに観ていたわけだが、じっくり観ると「凄い名作」であったと驚かされる。完璧ではないだろうか。
主要となる登場人物も少ない。主役を含めて男女三人ぐらいである。
物体の「転送装置」を発明した男は、自分自身の肉体をもって実験して転送させる。その際に一度解体された肉体が融合して結合することで、男は「新しい自分」になったと誤解する。肉体が超人的に変貌して、人格までもが狂っていいく。「転送装置」による副作用で、男は自分は変わったと思い込み、恋愛関係にある女性までもを「転送装置」に引きづりこもうとする。
何とも素晴らしい脚本、物語であろうか。
男は「転送」される際に、一匹のハエが混入していたことに気付いてなかったのだ。
男の背中にある傷口からハエの細胞の一部が飛び出ていることを見せる描写も、すこぶる良かった。
「すぐにハエ男に変貌する」のではなくて、徐々に気づいてない間に変貌していく過程も素晴らしすぎた。
またBARで絡まれた男と腕相撲をして、相手の男の腕をへし折る描写も最高である。骨を折るだけでなくて、皮膚から骨が飛び出すところを見せたのはクローネンバーク監督のお茶目でニクイ演出である。
『ザ・フライ』の素晴らしいところは、ハエ男に変貌した男が「恐怖の存在」として街の人たちに恐れられるという描写はない。ハエ男になったことで、変わりゆく男の「悲哀」が描かれている。恐怖を押し付けるのではなく、悲哀があるからこそ、より深みのある作品になっていく。
ハエ男になった悲哀は、自分の頭部にライフルの銃口を無言であてるという場面で、観ている者にも感情移入させるのだ。
もしも自分がハエ男になったとしたのなら、「殺して欲しい」と懇願するだろうし、もしも自分の大切な人が変貌したのならば、やはり銃で撃ち殺すことは出来ない。そんな葛藤が映画の中で恐ろしくも悲しくも表現されている。
『ザ・フライ』見事な名作。非常に満足したといったところで、「カット、カット」。
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