独特の切り口とセンスで描く深田晃司監督の『よこがお』を観た。
『よこがお』 人間の内面を描くリアル。 無言の重圧が凄い。 監督:深田晃司 出演:筒井真理子 市川実日子 池松壮亮 |
不条理な現実に巻き込まれたひとりの善良な女性の絶望と希望を描いたサスペンス映画。
監督は、カンヌ国際映画祭ある視点部門で審査員賞を受賞した『淵に立つ』の深田晃司。
また、同作でもタッグを組んだ筒井真理子が再び主演を務める。
市川実日子、池松壮亮、吹越満らが脇を固める。
2019年製作/111分/PG12/日本・フランス合作
配給:KADOKAWA
周囲から信頼されている訪問看護師の市子(筒井真理子)は、1年ほど前から看護に通っている大石家の長女・基子(市川実日子)の勉強を見ていた。
基子は気の許せる唯一無二の存在として市子を密かに慕っていたが、基子から市子への思いは憧れ以上の感情へと変化していった。
ある日、基子の妹のサキが失踪する。
1週間後にサキは保護されるが、誘拐犯として逮捕されたのは思いも寄らない人物だった。
事件への関与を疑われた市子の日常は一変、理不尽な状況に追い込まれ、これまで築きあげてきた生活が崩壊して全てを失ってしまう。
以前、『淵に立つ』という凄くイヤな物語の映画を観たんだが、その作品の深田晃司監督が手掛けた『よこがお』を観てみることに。
『淵に立つ』にも出演していた筒井真理子さんが主演。
本作でも「何かイヤァな雰囲気」を醸し出していた。
役者さんは皆、演技が達者な人たちばかりで、深田晃司監督の好みがうかがい知れる。
フィクションでありながらも、人間の内面を露わにしたリアルさは、演技達者な方でないと表現は難しい。
0コンマ1ミリの心の動揺や感情の起伏を表現するのは、思っている以上に難しいことだ。
また市川実日子の表情も凄くイイ。
キャストのそれぞれが「善」と「悪」のどちらにも振り切れる絶妙で微妙な顔をしている。
それはタイトル通り、違った側面を見せる「よこがお」なのかもしれない。
「いい人」に映っていた人が、その側面を見せた時に「恐ろしい人」になっていたりする。
主役の筒井真理子は幸福からの転落となっていたが、「幸せ」というものはそういうものである。
「幸せ」は「不幸」への前フリに過ぎない。
高く高く「幸せ」を設定しておけばおくほど「不幸」への落差は大きいのだ。
「生きる」ことも「死」への前フリなのかもしれない。
全ての物事が壊れていくための前フリであるかのように思えてならない僕の思考と、『よこがお』という映画の中に垣間見える人々の表情が静かに歪んでいくのだ。
さらにこの映画で見せる「無言の重圧」が凄い。
無言であることによる重圧が、重く重くのしかかってくる。
無音のままクレジットロールが流れていくことは、最後まで観る者にとって重い重圧がのしかかってくるのである。
退屈になりがちな物語を、ここまで人間の内面や側面「よこがお」をあぶり出して見せた深田晃司監督の演出は一見の価値ありといったところで、「カット、カット」。
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