吉田恵輔監督のボクシング映画『BLUE ブルー』を観た。
『BLUE ブルー』 切ない瓜ちゃん。 叶わぬ夢に情熱を燃やす男。 監督:吉田恵輔 出演:松山ケンイチ 木村文乃 柄本時生 |
『ヒメアノ~ル』『犬猿』の吉田恵輔監督が長年続けてきたボクシングを題材に、挑戦者たちの熱い生き様を描いたドラマ。
吉田恵輔監督のオリジナル脚本。
『聖の青春』などの松山ケンイチが主演を務め、後輩ボクサーの小川を『OVER DRIVE』などの東出昌大、初恋の人・千佳を『ザ・ファブル』シリーズなどの木村文乃、新人ボクサーの楢崎を『記憶の技法』などの柄本時生が演じる。
2021年製作/107分/G/日本
配給:ファントム・フィルム
大牧ボクシングジムに所属する瓜田信人(松山ケンイチ)は、誰よりもボクシングを愛しているが、どれだけ努力を重ねても試合に勝てずにいた。
一方、瓜田の誘いでボクシングを始めたチャンピオン目前の後輩の小川一樹(東出昌大)は、才能とセンスに恵まれ日本チャンピオンに王手をかける。
瓜田をボクシングの世界へ導いた初恋の女性・天野千佳(木村文乃)は、今では小川の婚約者。
瓜田が望んだものは全て小川に奪われたが、ある出来事をきっかけに瓜田はこれまで抱えてきた思いを2人の前で吐露した。
吉田恵輔監督は日本の好きな監督の一人であり、作品での狂気をはらんだ登場人物たちの過激な描写の巧みさに毎度衝撃を受ける。
本作の『BLUE ブルー』でも、過激に満ちたカオスな状況が待ち受けていると思っていた。
終始、大人しくて優しくて自分の感情を抑えている松山ケンイチ演じる瓜田がきっと大暴れするに違いない。
しかし、この瓜ちゃんは一向に感情を爆発させない。ボクシングを純粋に真剣に愛している心優しき人間なのだ。
瓜ちゃんの後輩である小川は、瓜ちゃんが欲しいものを全て手に入れている。日本チャンピオン、そして恋人の千佳。
狂った瓜ちゃんが、チェーンソーで小川の首をはねたって何の問題もないではないか。
瓜ちゃんの攻撃は絞り出した、たった一言「いつもお前に負けて欲しいと思っていた」。しかも「知ってましたよ」と小川のカウンターを喰らってしまう瓜ちゃん。
ボクシングも辞めて、小川や千佳の元から姿を消して結婚式にも現れない瓜ちゃん。
くぅ~、切ないよ瓜ちゃん。僕の心を締め付ける瓜ちゃんに自分を投影させて「きっと僕も瓜ちゃんなのだ」と涙に濡れたシーツを噛みしめるのであった。でも実際、瓜ちゃんを演じている松山ケンイチはイケている男だから、リアル瓜ちゃんは僕なので死にたくなる。
本作での柄本時生も良かった。吉田恵輔監督ならではの登場人物。
チェーンソーを振り回すなら柄本時生しかいないと思っていたが、彼もまた最後までコミカルで憎めないヤツであった。
彼を主人公にして物語を引っ張っていくだけの面白さもある。
ボクシングをひたすらに愛して、だけど結果が出ない負けっぱなしのボクサー瓜ちゃん。そんな彼に自己投影させて感情移入した人も多いのではないだろうか。
大きな山場もない物語ではあるが、静かに切なく儚い心に沁み込む映画であった、といったところで「カット、カット」。
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