ヒッチコックの『知りすぎていた男』を観た。
『知りすぎていた男』 ヒッチコックの技巧。 スリリングな演出。 監督:アルフレッド・ヒッチコック 出演:ジェームズ・スチュワート ドリス・デイ ダニエル・ジェラン |
イギリス時代のヒッチコックが作った『暗殺者の家』をリメイク。
チャールズ・ベネットとP・B・ウィンダム・ルイスが原作。
『ハリーの災難』のジョン・マイケル・ヘイズとアンガス・マクフェイルが脚色、『ハリーの災難』のロバート・バークスが撮影監督。
バーナード・ハーマンが音楽。
『カービン銃第1号』のジェームズ・スチュアートと『情欲の悪魔』のドリス・デイが主演。
ドリス・デイの歌う「ケ・セラ・セラ」が非常に効果的に使われるサスペンス・スリラーの傑作である。
1956年製作/アメリカ
原題:The Man Who Knew Too Much
配給:パラマウント映画
あるフランス人の死に立ち会ったベンは某国の首相暗殺計画を知らされてしまい、やがてベンの口を封じるために彼の息子が誘拐される。
ベンと妻のジョーは、暗殺者がひそむ教会へと乗り込んでいくのだが・・・。
『知りすぎていた男』というタイトルだけで惹かれて、その物語が気になる作品。
かなり昔に観たような気もするが忘れてしまったので観てみることに。
アフリカを訪問中の夫婦とその息子に近づいてきたフランス人の男と親しくなったことによって、予想だにしない事件に巻き込まれていく恐怖とヒッチコックのサスペンスを魅せる技巧が、最後の最後まで臨場感溢れる物語に引っ張っていってくれている。
親しくなったはイイが、どこかしら胡散臭い男が善人なのか悪人なのか、観ている者をも気味の悪い不安に陥れる。
そんな男が背中に短剣を刺されたまま命からがら自分の目の前にまで近寄って来て、「某国首相の暗殺計画」を告げ、命尽きるという見事なドラマチックでミステリアスなシーン。
多くの謎を仕掛け、さらに不安が高まる中で、大事な息子が誘拐されてしまうという悲劇。
ただアフリカを訪問していただけなのに事件に巻き込まれて、「息子の命」と「首相の命」までを抱え込むことになってしまった主人公。
何と言っても本作での素晴らしさは、音楽を使った最高の演出だ。
アルバートホールでのコンサートの真っ最中、「シンバルを打ち鳴らすと同時に首相を狙撃する」というハラハラドキドキさせる演出である。
暗殺計画を実行する場所がコンサートでの演奏中であるというドラマチックでスリリングな演出は、映画を一層楽しめる仕掛けになっている。
『ゴッドファーザーPARTⅢ』でのオペラハウスでの狙撃シーンは、『知りすぎていた男』から拝借していたのか。
クリストファー・ノーラン監督の『TENET テネット』でもコンサート中のテロ事件シーンがあったが、全てはヒッチコックの『知りすぎていた男』が原点なのかもしれない。
ヒッチコックが後の映画監督たちに与えた影響は大きい。
首相の命を救ったお礼に大使館に訪れた夫人が「ケ・セラ・セラ」を歌うことによって、捕らえられていた息子が口笛で応え、非常にドラマチックで感動的な「ケ・セラ・セラ」が物語をクライマックスへと導く。
あまりにも美しく心を震わせる「ケ・セラ・セラ」。
ヒッチコック監督の観客を楽しませようとする映画的技巧がふんだんに詰まった一品であった、といったところで「カット、カット」。
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