吉田恵輔監督の新作を観たのだ。
『空白』 古田新太はモンスター? 松坂桃利はサイコパス? 監督:吉田恵輔 出演:古田新太 松坂桃李 田畑智子 |
古田新太と松坂桃李の共演で描く、吉田恵輔監督によるオリジナル脚本作品。
悪夢のような父親・添田を古田、彼に人生を握り潰されていく店長・青柳を松坂が演じる。
『さんかく』の田畑智子、『佐々木、イン、マイマイン』の藤原季節、『湯を沸かすほどの熱い愛』の伊東蒼が共演。
2021年製作/107分/PG12/日本
配給:スターサンズ、KADOKAWA
女子中学生の添田花音はスーパーの化粧品売り場で万引きしようとして、店長の青柳直人(松坂桃李)に見られたため思わず逃げ出して、国道に飛び出して乗用車とトラックにひかれて死亡してしまう。
娘に無関心だった花音の父・充(古田新太)は我が子の無実を信じて疑わず、事故の関係者たちを次第に追い詰めていく。
好きな映画監督の一人である吉田恵輔監督の新作。予告編で観ていた時から心に重圧がかかるイヤなテーマは観ることに心構えが必要で、鑑賞後に重たく暗い気持ちになる可能性があることを予見しながらも視聴するに至った。
古田新太のド迫力の顔面とウザイ親父感が緊張感を与え、これから起こりうる悲劇の幕開けを何も出来ないまま待つしかない。
松坂桃李がスーパーマーケットの店長を務める店で万引きをした少女を追いかけたことによって、起きてしまった凄惨な交通事故。全員ショックな最悪な事態で、亡くなった少女や松坂桃李、事故を起こしてしまった女性にトラックの運転手、全員がどうしようも出来ない状況に遭遇する。
「少女の花音ちゃんが万引きをした」ていで物語は進められていくが、映像では花音ちゃんが実際に万引きをした確証となるシーンは映し出されていない。
敢えて吉田恵輔監督が万引きシーンをぼかしたと思われる。
スーパーマーケット側に落ち度があるとすれば、本来は店を出た後に捕まえなければならないのに店内で早々に捕まえたこと。
店内だと万引きをした確証にはならず相手側に幾らでも言い逃れが可能なので、未清算の商品を店の外まで持って行った事実があって相手を捕まえることが出来るのだ。
一番キツかったのは最初に車ではねてしまった女性である。死角から急に飛び出して来た物体を避けようがなく、不運でしかない。
それでも運転手の過失として扱われ、大きな罪悪感と重い十字架を背負うことになる。結局は背負いきれなかったのだが。
松坂桃李が過去に痴漢をしたという噂も真実が明かされず、ぼかされたまま終わっていく。
その噂はウソであると推測するが、フツーに生きている人が、そんな疑いをかけられるだろうか。後味の悪い少しの引っ掛かりが拭いきれない。
視聴者目線での幾つもの疑いや「真実は何?」という引っ掛かりが、花音ちゃんの父である古田新太の心境だとも言える。
ましてや愛娘が事故死したのだから、古田新太が大きな疑惑を抱くことも理解出来る。
好き勝手に報道するワイドショーもそうだ。松坂桃李へのインタビューで、スーパーマーケット側が不利になるような編集で印象操作をして、真相も知らないまま(むしろ真相なんてどーでも良く)面白おかしく報道する。
悲しかったのは古田新太が実の娘である花音ちゃんについても、よく知らなかったことだ。
同じ屋根の下で暮らしながらも表面的なところだけしか見ずに、娘からの相談も聞く耳を持たなかった。
ヘタクソな絵を描き始める古田新太は不器用過ぎるが故の言葉に出来ない想いを、絵を描くことで消化させていた気がする。
横暴な性格の男が、ヘタクソだが温かみのある優しい絵を描いていた。
「ありがとう」や「ごめん」を決して言わなかったであろう愛情表現のヘタクソなクソ親父が、物語後半では本当に穏やかに言葉を発する。
まるで荒れていた海が静かに穏やかになっていくように、最後は少しだけ心が救われそうな結末(まだまだ続く人生の過程ではあるが)を迎える。
気になった点は「こんな時でも大盛り食うんだな」と古田新太が指摘したように、松坂桃李がスタミナラーメン大盛りを注文する食欲旺盛なことと、ケータイゲームで遊んでいたシーンに松坂桃李の無神経さを感じた。のり弁も豪華なやつを食べようとしていたな。
交通事故死というショッキングな現場を目撃していながらも、交通整理の警備員として勤務していたところも不思議だった。実の父親が倒れた時もパチンコ屋で遊んでいたと供述していたし。
のり弁の時のクレームといい、松坂桃李にはヤバそうな一面も見受けられる。
涙して首を吊ろうとしたシーンもあったので、サイコパスではないと思うが。
本作で一番ウザイいと思われていた古田新太は一番ではなく三番であった。かなりウザかった寺島しのぶが二番で、一番ウザかったのは弁当屋で松坂桃李に「写真撮ってもイイですか?」と声をかけてきたキモイ奴。
キャスティングも良かった。主役から脇役に至るまで大正解なキャスティングで、演技達者な面々が揃っていた。
色んな考察が出来る吉田恵輔監督の最新作は色んな登場人物の立場で「空白」を考えられる見ごたえのある映画であった、といったところで「カット、カット」。
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