のんが監督した映画 『Ribbon』を観たのだ。
『Ribbon』 女性の感性とのんのアーティスト性。 色鮮やかなリボンが画面を舞う。 監督:のん 出演:のん 山下リオ 渡辺大知 |
女優のんが、自ら主演・脚本も務め初メガホンを取った劇場公開の長編映画。
YouTubeで配信された映画『おちをつけなんせ』で、のんは監督デビューを果たしている。
『シン・ゴジラ』の監督・特技監督の樋口真嗣と准監督・特技統括の尾上克郎が特撮チームとして参加。
2021年製作/115分/G/日本
配給:イオンエンターテイメント
コロナ禍の2020年、美大生のいつかは大学の卒業制作展が中止となり、一年かけて制作した作品を持ち帰ることになり、様々な感情が渦巻いて何も手につかない彼女は、心配してくれる両親とも衝突する。
妹のまいもコロナに過剰反応して、普段は冷静な親友の平井も苛立ちを募らせていた。
絵を描くことに夢中になるきっかけをくれた田中との再会、平井との本音の衝突、心を動かされたいつかは、自分の未来を切り開くため立ち上がっていく。
監督と主演を務めることに加え自らが脚本や編集に携わっていることに、のんの才能と表現への探求心と好奇心、情熱が感じ取れる。
コロナ禍における問題に、若者が葛藤している状況を描いたことも秀逸だ。
下手な恋愛を描くこともなく、スーパーマンのような主人公を描くこともない、コロナ禍でフツーの日常生活さえままならない美大生のリアルを描く。
主要キャストも、家族、友人、中学の同級生という人間関係の中で、派手な登場人物が出てくるわけでもない。
「少~しだけ変な」周囲の人たちとの日常を、コロナ禍を通して、関わりを見せていく。
フレームに映るのが大抵一人か二人で、「のんと誰か」で構成されている。唯一三人の場面があったのは、のんと妹と田中君の公園でのやり取りだ。
中学の時の同級生の田中君の存在が不思議で、「お前、いつも昼間から公園で何してんねん?」と思ったが、同級生なので彼も大学生であるならば昼は暇で、夜はバイトでもしているのか。
夜間に忍び込んだ大学の警備員の声が、田中君に似ていたことも気になったが、そこまで深い意味はないだろう。
それにしても、中学生の時に自分の絵をプレゼントした田中君のことをすっかり忘れてしまっていることに不自然さはあったが。
限られた主要キャストで繰り広げられる脚本の上手さや、撮影場所の殆どが主人公の部屋と公園で展開されることも、よく考え込まれている。
コロナ禍という制限の中で、限られた製作費で、そもそもコロナ禍なので大勢で撮影することが難しく、人の集まる場所でのロケ地も避けなければならない状況下において、色んな制限をかいくぐりながら、必要最低限のキャストとロケ地で物語が作られているのだ。
女性の感性とのんのアーティスト性が相乗効果を生んで、美大生の日常風景を色鮮やかなリボンが主人公の感情に呼応して画面を舞う。
主人公が前向きに生きようと走り出す映像には、サンボマスターの歌がよく似合う。
のんの感性と表現力、更には計算された映画作りに頭の良さを感じた、といったところで「カット、カット」。
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