人種差別問題を描いた『隔たる世界の2人』を観たのだ。
『隔たる世界の2人』 タイムループの展開の巧みさ。 随所に散りばめられたメッセージ。 監督:トレイヴォン・フリー , マーティン・デズモンド・ロー 出演: ジョーイ・バッドアス , アンドリュー・ハワード , ザリア |
NY出身で人気ラッパーのジョーイ・バッドアスが、プロデュースと主演を務めたNetflix短編映画。
監督・脚本をコメディ・セントラルでライターを務めていたトレイヴォン・フリーが手掛け、マーティン・デズモンド・ローが共同監督を務めた。
2021年、第93回アカデミー短編映画賞を受賞。
Netflixで2021年4月9日から配信。
2020年製作/32分/アメリカ
原題:Two Distant Strangers
一夜をともにした女性の部屋で目覚めたグラフィックデザイナーのカーターは、愛犬の世話をするため自宅へ帰ろうとするのだが、路上で遭遇した警官メルクに所持品検査を強要される。
抵抗すると地面に押さえつけられ窒息死に追いやられてしまったが、カーターは再び女性の部屋で目を覚ます。
再び帰ろうとするとやはりメルクに遭遇し、今度は射殺されてしまい、自分がタイムループにはまり込んだことにカーターは気付く。
カーターはメルクに殺される運命から何度も抜け出そうとするが・・・。
2021年アカデミー短編映画賞を受賞した本作を観たが、かなり濃厚な30分で、アメリカで度々問題になっている白人警察官による黒人差別での殺人が描かれている。
何の罪も犯していない黒人を、白人の警察官が殺害するニュースは日本でも度々目にする。人種差別といっても行き過ぎやしないか。無抵抗な人間を死に追い込む必要はない。
本作は社会問題である重いテーマを「タイムループもの」の映画というカタチで、メッセージを発している。
一晩の関係を持った女性のペリーの家を後にして、「犬の待つ自宅に帰りたい」だけの黒人男性のカーターが、白人警察官のメルクに目を付けられ殺害される。そんな最悪な朝を何度も繰り返す。
どんな選択肢を選んでみても、何故かカーターは殺されてしまう。「え?その方法もダメなの??」と思ってしまう程に、何をやっても殺されてしまう。
タイムループでの先の展開が気になる物語の巧みさもさることながら、随所に散りばめられたメッセージによる仕掛けも上手い。
カーターの部屋のテーブルに置かれたジェームズ・ボールドウィンの著書『次は火だ』は、アメリカの人種問題の歴史等を綴ったノンフィクション小説である。
愛犬ジーターはメジャーリーガーの選手から名前を付けたという設定で、元ヤンキースのデレク・ジーター選手は黒人の父親と白人の母親から生まれた人物なのだ。
カーターが聴いていたミュージックが、ブルース・ホーンズビー・アンド・ザ・レインジの『The Way It Is』で、階級格差と人種差別を歌った1986年の曲である。
そして極めつけは、殺され倒れたカーターの流れる血がアフリカ大陸の地図のカタチをしていたのだ。
メッセージを散りばめながら、最後の最後にエンドロールで、実際に事件の被害にあった黒人たちの名前が流れる。
タイムループというフィクションと、実際にあった事件を基にしたノンフィクションを交えた見応えのある30分である。
鑑賞後も考えさせられる作品であった、といったところで「カット、カット」。
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