話題の『ドライブ・マイ・カー』を観たのだ。
『ドライブ・マイ・カー』 美化されたド変態の異常性欲者な妻。 車の運転技術で縮まる心の距離。 監督:濱口竜介 出演:西島秀俊 三浦透子 岡田将生 |
村上春樹の短編小説を原作に、濱口竜介監督・脚本により映画化。
『女のいない男たち』に収録された短編『ドライブ・マイ・カー』を基にしている。
『女のいない男たち』
村上春樹 (著) |
『きのう何食べた?』シリーズなどの西島秀俊が主人公・家福を、『21世紀の女の子』などの三浦透子がヒロインのみさきを、『さんかく窓の外側は夜』などの岡田将生が物語の鍵を握る俳優・高槻を、『運命じゃない人』などの霧島れいかが家福の亡き妻・音を演じる。
2021年・第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品、日本映画で初となる脚本賞を受賞。
国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞の3つの独立賞も受賞した。
2022年・第94回アカデミー賞では日本映画史上初となる作品賞にノミネートされたほか、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞とあわせて4部門でノミネートとなる快挙。
第79回ゴールデングローブ賞の最優秀非英語映画賞受賞、アジア人男性初の全米批評家協会賞主演男優賞受賞など、全米の各映画賞でも大きく注目を集めた。
2021年製作/179分/PG12/日本
配給:ビターズ・エンド
舞台俳優で演出家の家福悠介(西島秀俊)は、脚本家である妻の音(霧島れいか)と幸せな日々を過ごしていたが、妻はある秘密を残したまま突然他界してしまう。
2年後、喪失感を抱えながら生きていた悠介は、演劇祭で演出を担当することになり、愛車のサーブで広島に向かう。
そこで出会った寡黙な専属ドライバーの渡利みさき(三浦透子)と時間を共有する中で、それまで目を向けようとしなかったあることに気付かされる。
カンヌで脚本賞を獲った本作を観てみることに。
冒頭でやたらと「小説みたいな話し方」をする不自然な女性が気になるなぁと思っていたが、セックスの後に自分の思い付いた物語を話すという設定の女性であった。
セックスの後に長々と物語を語られても面倒くさく途中で眠ってしまいたいと思うのは、優しくない男になるのだろうか。
著名な脚本家の放つ言葉なので、有難がって聴くべきなのだろうか。
そんな女性を本作では美化して描かれていたが、率直に「ド変態やな、こいつ」と思ってしまった。
ド変態な性癖を持つ異常性欲者な妻は他の男とも関係を持ち、何故か皆の中で美化されているという羨ましい存在である。
浮気しても不倫してもド変態なヤリマンでも、皆に愛されて「美しくて魅力的な人」になっているのが不思議なのだ。
西島秀俊演じる家福が多言語演劇なるカッコつけた演劇を公演しており、韓国や台湾、フィリピンなど国籍を問わず、また手話で会話する役者を揃えることによって物語に膨らみを持たせている。
アントン・チェーホフの『ワーニャ伯父さん』の戯曲を物語に絡めて現実世界とリンクさせていく構成が見事で、「戯曲通り」な展開に主人公たちが動いていることに気付かされる。
タイトル通り車内でのシーンが多く撮影されているが、夜はキッチリと暗い車内を描写していて、不自然に照明が焚かれていることなくリアルな車内を演出していたのが印象的。
妻の運転に対してモラハラまがいのことを言う家福が、段々と運転手のみさきを信頼するようになり、次第に後部座席から助手席へと距離を縮めていく心理描写も良く出来ていた。
自分の車を大事にしている家福が運転中のみさきに煙草を吸うことを許し、サンルーフの外に煙草を持った二人の手が並んで夜の風景と溶け込んでいくシーンが美しい。
三時間の長い映画だが、ひとつひとつの人間の心の細かい揺らぎを表していくとなると必要な三時間である。
カンヌで脚本賞を獲るのも頷ける濃密な物語で映画を観た後も色々と考察したくなる作品だが、登場人物たちが皆、悲愴感を醸し出し過ぎていたのが気になる点だ。
妻の浮気現場を目撃しても感情を露わにしない家福なので仕方ないが、その他の登場人物も暗すぎないか。
作品のトーンがあるので不釣り合いな登場人物は出せないが、「こんな世界、息が詰まる」と思ってしまった。
岡田将生演じる高槻は中でも面白い役柄で、女性にだらしない上に暴力事件を起こしてしまい人生を棒に振る男。
その割には、家福への接し方は礼儀正しく好青年。
家福も聴かされてなかった妻の物語の続きを語る高槻に、「お前もセックスの後に長々と物語を聴いていたんだな!」と感心してしまった。真面目に好意を抱いていたのが理解出来るシーンである。
ラストシーンはちょっと驚いてしまった。
「なんで、みさきが韓国にいるの?」と疑問だったが、家福の海外公演に運転手として付いてきたのか。「車を大事にしている」家福の車内に犬を連れこむことを許され、悲愴感溢れる顔つきが少し明るくなり車を走らせていく。
本気で考察するとなると本作を再度観たり、村上春樹の小説や『ワーニャ伯父さん』『ゴドーを待ちながら』の戯曲を読んだり、監督のインタビュー記事等を漁らなければならない位、濃密で細かい物語であった、といったところで「カット、カット」。
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