紅白出場をしたAIで蘇った美空ひばりは、果たして故人への冒涜なのだろうか。
世間の反応は「感動した」という声と、「冒涜だ」という怒りの声とで分かれているようだが、今更だけども個人的に引っ掛かっていた問題だったので深堀りして考えていきます。
先ず初めにAI美空ひばりをご存知でしょうか?
AI(人口知能)技術によって復活させた美空ひばりの制作の裏側を追ったドキュメンタリーが2019年9月にNHKにて放送されて大きな話題を呼んだ。
番組のホームページ上では視聴者からの感動の声が寄せられている。
そして同年、第70回の節目である「NHK紅白歌合戦」では、1989年に死去した美空ひばりをAIで復活させて、30年ぶりの12月18日に発売された『あれから』を披露した。
『あれから』は、美空ひばりの最後のシングル曲『川の流れのように』を作詞した秋元康によるプロデュースで、「美空ひばりさんの歌唱を習得したAIが新曲を歌う」という作品。
『あれから』 美空ひばり(AI歌唱) |
しかし一部の著名人からは批判的な声が上がり、テクノロジー技術の進歩と人間の道徳心は切っても切り離せない問題であることが露呈された。
両極端な声が上がったAIによって復活した美空ひばりであるが、新しい試みであったことと、国民的大スターである神格化された美空ひばりという故人を扱ったことで、賛否の声が上がることは制作者側も多少想像のできた範囲内であったと思う。
それでもモノづくりの飽くなき探求心とは、テクノロジーの進化とAIの技術による進歩によって遺憾なく発揮せざるを得ない、人間の好奇心が相まった避けては通れない必然的な状況だったのである。
遅かれ早かれ、このような故人を扱ったAIでの復活という賛否が巻き起こる制作はされていたであろう。
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◦漫画家の小林よしのりが「美空ひばりを侮辱してはいかん」とブログで発表。
◦紅白歌合戦の白組司会を74年から9回連続で務めた元NHKアナウンサーの山川静夫は「僕は反対だな」と毎日新聞のインタビューで回答。
◦美空ひばりと親友であった女優の中村メイコは、「単純な言い方をするとイヤだ。本人が歌って欲しい」とニッポン放送のラジオ番組で語った。
◦そしてシンガーソングライターの山下達郎は「冒涜です」とラジオ番組で言及。
AI美空ひばりによる僕個人の感想は「素晴らしかった。感動した」である。
『あれから』という歌そのものの良さが、AI歌唱ではあるが美空ひばりさんの歌声を通して単純に僕は感動した。
果たして本当に「冒涜」なのだろうか?
AIという人間の温もりや感情、血が流れない生物ではないものが故人である美空ひばりを歌うことは許されないのか?
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ものまね芸人が遺族の方の了承を得ずに「美空ひばりのものまね」をして歌うことは許されて、遺族の方の了承を得て制作された「AI美空ひばり」が歌うことは何故許されないのか?
ものまね芸人は「美空ひばりをリスペクトして大好きだから一生懸命練習した」からなのか。AI美空ひばりの制作スタッフだって美空ひばりをリスペクトして大好きだから一生懸命制作したのかもしれない。
人間が美空ひばりをものまねして歌うことは許されて、AIによる美空ひばりの「ものまね」は何故ダメなのか?
映画『ボヘミアン・ラプソディ』では、イギリスのロックバンド・クイーンの故人であるボーカルのフレディ・マーキュリーをラミ・マレックが演じて世界中の人たちが感動したが、何故AIになった途端に冒涜であるのか?
教えて欲しい。
ではリアルな人間の姿ではない漫画やアニメで描いた『美空ひばり物語』は冒涜になるのだろうか?
今まで膨大な量の故人の伝記が漫画やアニメで描かれてきたが、それら全てが冒涜であると主張するのか?
故人である歴史上の人物をお笑いコントで扮したら、冒涜なのか?笑っちゃダメなのか?
「何百年も過去の人物は該当しない」というのか?何百年経てば暗黙の了解で許可が下りるのか?
もしも大河ドラマをAIで歴史上の人物を復活させたら、冒涜になるのだろうか?
故人の姿をおもちゃとしてフィギュアで販売することは、冒涜なのだろうか?
ブルース・リーのフィギュア等が世の中には沢山販売されているが、それは冒涜なのだろうか?
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フロリダ州セントピーターズバーグにあるダリ美術館で、サルバドール・ダリをAIで復活させた「Dali Lives」は冒涜なのか?
まさか「ダリはイイけど、ひばりさんはね~」なんて中途半端な物差しで批判をしていたわけではあるまい。
教えて欲しい。何故、冒涜なのか?を。あなたが決めた冒涜ルールのライン引きは、どこからどこまで冒涜なのかを教えて欲しい。
中途半端な道徳心と正義感でテクノロジーの進化と技術の発展を食い止めようなんて、人類への冒涜である。
僕は決してAI美空ひばりが冒涜であると思わない。
映像で浮かび上がった美空ひばりの姿は、確かに違和感もあった。漫画やアニメとは違いリアルさの中に見える人間味のなさは、まだまだ技術の進化過程だから仕方ない。人間とAIの区別がつかなくなったとしても、それはそれで違和感は感じると思うが。
何となく「イヤだ」という拒否反応があることは理解できる。それはAIに限らず、どんな作品であれ賛否とは分かれるものである。全ての人たちに受け入れられて絶賛される作品は存在しない。
しかし「侮辱」だとか「冒涜」だとか言われると、個人の感じ方を越えた問題提起である。
カレーライスを食べて「美味しい」か「美味しくないか」は個人の感じ方である。「好きだ」「嫌いだ」も賛否分かれて結構であるが、「カレーライスなんて食べ物への侮辱だ!冒涜だ!」と主張されれば話は違ってくるのだ。シチューは良くてカレーライスが何故ダメなのか?ハヤシライスが良くてカレーライスが何故ダメなのか?その理由を僕は知りたいのである。
今回のAI美空ひばりによって僕は美空ひばりという偉大な歌手に大いに興味を抱いたし、普段聴くことのなかった美空ひばり自身の歌を聴こうとする動機付けになった。
「冒涜だ」と主張する人たちは一体どれだけ多くの方に美空ひばりの歌の良さを伝えて、どれだけ多くのCD等の販売物を売上貢献することが出来るのだろうか?
AI美空ひばりによって多くの人たちに美空ひばりの歌の良さを再認識させて、どれだけ多くのCD等の販売物に売上貢献出来たのだろうか?
どちらの方が美空ひばりの素晴らしさを多くの人たちに伝えることが出来たのだろうか?
[NHKスペシャル] AIでよみがえる美空ひばり | 新曲 あれから美空ひばり(AI歌唱) / あれから(メモリアル映像) |
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