日動画廊にて開催中の『鴨居玲展』に行ってきた。
期間は5月10日から5月23日まで開催されている。
没後30年以上経った日本の洋画家である鴨居玲の作品と対峙するのは、初の体験である。
約30点もの展示作品が並んでいるが、そのどれもが力強くエネルギッシュで情熱が溢れていた。
作品の持つ雰囲気は暗いが、命の鼓動が聴こえてくるぐらいに、「生」を感じる。
幾度となく自殺未遂を繰り返して、その生涯の幕を57歳で自ら閉じたらしいが、実は誰よりも真剣に「生」と「死」を考え深く見つめていたのではないだろうか。
生と死は遠く離れたものではなく、表裏一体。暗く描かれた鴨居玲の作品から、沸々と生の息吹を感じるのだから仕方ない。
作品の中の人物は、身体を反り、暗鬱な表情を浮かべながら、憂いているのか、何かに嘆いているかのようで、黙ったまんま。
緻密な構図と大胆な余白が、暗がりの闇でロウソクの炎のように命の灯が宿り、作品を静かに際立たせている。
じっくり見ていると、作品の持つ渦巻く蠢いた力強さに、重く吞み込まれてしまいそうになる。
自分の命を削って描いた一人の画家の孤独感が、美しい程に残酷に映し出され、暗闇へといざなう。
今回展示されている作品の中で、個人的に目を引いたのは『肖像』『ギター』『道化師』である。
『肖像』では、自分の頭部を手に持った、のっぺらぼうの男が鴨居玲の苦悩を表している。幸せでハッピーな精神状態では描くことはない。
人間の内面が深くえぐり出されるぐらいにキャンバスから滲み、おぞましい程のオーラを放つ。
憂いと哀しみが、静かに激しく魂を揺さぶる。
人は鴨居玲の持つ異様な雰囲気に魅了される。男前で日本人離れした体格、茶目っ気がありダンディーだったそうで、女性にもモテていたという。
しかし、そんな鴨井玲の絵は、酔っ払いや社会的に貧しい人たちをモデルに描いた作品が多い。
鴨居玲という人物像と、描かれた作品のギャップがまた彼の魅力でもあったのだろう。
人間の内面を描き、己の心の深く深く遥か底までを見つめながら、「生」と「死」に真剣に向き合い、痛々しい程に血液の如く絵の具をキャンバスに叩きつけた幾つもの魂の作品。
とても痛かっただろう。とても傷ついただろう。とても寂しかっただろう。
どんな精神状態で作品と向き合っていたのか本人にしかわからないが、そんな苦悶の姿が目に浮かぶのだ。
彼自身の生き方、生き様、歩んできた人生、作品は非常に興味深く、画集等を購入してみようかと思う。
そして、また近くで展覧会があった際には足を運んでみよう。
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