井上雄彦先生のバガボンド画集『墨』を買ったのだ。
バガボンド画集『墨』 井上 雄彦 (著) |
バガボンド – 宮本武蔵の生涯を描いた井上雄彦先生の漫画だが、剣豪・宮本武蔵のように達人的な風格を感じる井上雄彦先生の『墨』と題した画集は、まさに漫画家自身が戦った血と肉と骨を斬り刻んだ作品群が載せられている。
剣豪・宮本武蔵というならば、これはペン豪・井上雄彦先生の戦いの記録である。
画集に収録された内容は『バガボンド』での漫画の名シーンの一コマを集めたようなものであるが、その緊迫した瞬間瞬間を切り取ったものは、まごうことなき「芸術」!!
漫画コミックのイラスト集を見ている感覚はなく、息を呑むほどに緊張感がはしる芸術画集を見ているようだ。
戦う男たちの研ぎ澄まされた神経が剣の切っ先に、井上雄彦先生のペン先に鋭く描かれている。
『スラムダンク』でのバスケによる死闘から、侍たちの死闘に舞台を変え、新たなる表現方法の開拓が成されている。
まさか高校生の青春を描いた『スラムダンク』から、江戸時代初期の宮本武蔵を描くとは思わなかった。
武骨な男たちの目が、手が、汗が、血が、何故だか、美しい。
墨一色で、深く濃く細やかでありながら大胆に描かれた絵が強烈な「静と「動」を表して、刹那的な「生」と「死」が目の前に叩きつけられる。
戦いの場に描かれた大地も草木も海も「生」きている。
激痛が襲いかかり、痛みすら感じ得なくなった時、「死」が待ち受けている。
「何故、斬り合わなければいけないのか」
狂おしいほどに激しく生き抜いた男たちの、純粋なほどの生き様。
鍛錬され続けた漫画家修行が、洗練された一瞬を描き、熟練された物語を紡いでいく。
戦いと対峙している時の出で立ちと、束の間の休息にいる顔つきは、まるで荒れた海と静寂な海を表しているかのように、言い知れぬ緊張感がある。
墨の美しさと墨による迫力を巧みに使い、風にたなびく髪の毛がうねりを打つ。
したたる血も飛び散る血も墨一色。
斬れ味鋭い、ペン先。
流れ脈打つ、筆先。
漫画の可能性を開拓しながら、井上雄彦先生にしか描けない井上流漫画。
井上雄彦先生の心血を注いだ、見応えのある油断も隙もない画集だ。
今後、井上雄彦先生は「達人」から、「仙人」になっていくのではないか?と勝手に想像する。
いつか後世の人たちに伝える「漫画・五輪書(ごりんのしょ)」を記してくれることを願う。
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