もの久保さんの作品集『ねなしがみ』を買ったのだ。
もの久保作品集『ねなしがみ』もの久保 (著, イラスト) |
もの久保さんのイラストは以前に見たような覚えもあるが、何んとなしにAmazonのオススメで表示されたことがキッカケで今回、購入するに至った。
幻想的で奇妙なイラストが物語を感じさせ、大いなる興味を抱いたのである。
幾つかの、もの久保さんの作品集の中で『ねなしがみ』を選択したのは、2021年10月21日に発売された「最新画集」であったことが決め手だ。
知らなかったのだが、もの久保さんは既に他界しているらしい。2022年1月24日に亡くなったらしいが、『ねなしがみ』が発売して僅か三か月のことである。死因は不明で、もの久保さんの詳細なプロフィールもわからない。ネット情報では、20代後半(27歳?)で男性であると考察されている。
『ねなしがみ』を手に取りページをめくっていくと、ただのイラストを集めた作品集ではなく、「ねなしがみ」を絡めた絵物語になっていることがわかる。
「ねなしがみ」は漢字表記で「根無神」。「根無上村」という架空の村を舞台にして描かれている。
巨大な生物が田舎の風景の中を風のように歩く。子供たちは悲鳴を上げるでもなく、大慌てして逃げ惑うわけでもなく、呆然と突っ立ている。裸足の子供たちの頭部にはバケツが被せらていたり、そのイラスト一枚から漂う不穏な空気が何とも言えない。
イラストを見ている自分も「何かが起きている」現象の「目撃者」になり、静かにズルズルと異界へと引きずりこまれそうな錯覚を起こす。
田舎の村の、どこにでも見られる景色に異質なモノが映り込む。だからこそリアルであり、少しばかりの恐怖感が芽生え、遠い世界の話ではないと感じさせるのだ。
作品集を見終えた後に部屋の外を見ると、何か奇妙なモノが見えそうな感覚に陥る。建物の向こうに巨大な生き物が揺らいでいるかもしれない。長い影が宙を舞っているかもしれない。バケツを被った子供が突っ立ているかもしれない。窓一面に巨大な手形が付いているかもしれない。
絵物語になっているイラスト一枚一枚は、更に想像力を膨らませて、描かれていない物語を見させてくれる。
もの久保さんのイラストから空想させる物語は、小説や漫画化にしても面白そうだ。アニメや実写のように動いている絵は不向きな気もする。台詞も殆どない方がイイ。小説なら淡々とゆっくりと不穏な空気感を文字で表して欲しいし、漫画なら台詞少なめに視覚で驚かせて欲しいところだ。
もの久保さんの新作を今後見ることは出来ないのは残念だが、何度でもページをめくりたくなる魅力的な作品集である。
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